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傑作ミュージカル映画『アイの歌声を聴かせて』を紹介するよ。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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『アイの歌声を聴かせて』を観て来た!

 昨日、わざわざレイトショーで映画『アイの歌声を聴かせて』を観て来ました。

 すでに一部で高い評価を獲得し話題となっている作品ですが、これが! たしかに傑作!! そういうわけで、ちょっと出遅れた感じではありますがこの作品について語ろうと思います。

映画『アイの歌声を聴かせて』予告編①|10.29 ROADSHOW

吉浦康裕監督、最新作!

 昨今、アニメビジネスの形態が変わって、いろいろなアニメ映画が豊作といっていいくらい出て来ています。

 そのクオリティはもちろんそれぞれではありますが、平均的に見ればひじょうに高いといって良いのではないでしょうか。

 数年まえの『君の名は。』のウルトラヒットの影響か、テレビシリーズでの「前走」のない映画オリジナルの企画もいくつもあって、ひとりのアニメファンとして、とても充実した状況が続いています。

 とはいえ、それがビジネスとしてヒットするかどうかはまったくべつの話。

 『天気の子』、『竜とそばかすの姫』といった数十億円を稼ぎ出すヒット作がある一方で、鳴かず飛ばずに終わる作品も多数であるようです。

 というか、ほとんどの作品はとくべつメジャーヒットすることなく終わっているんですよね。『空の青さを知る人よ』とかな!

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 相当に良い映画でも、べつだん話題になることなく終わってしまう、さらにはコロナ禍で上映そのものができなかったりする、という状況には、「とほほ」といわざるを得ません。

 いや、ほんと、良い映画なんですけれどね、『空の青さを知る人よ』……。

 まあ、きょうはその話ではないのだけれど、良ければ配信か円盤で見てみてください。面白いから。

 わが『アイの歌声を聴かせて』も、そのような情勢のなかで出て来た一作。

 一部のアニメファンにはその名が知られる『イブの時間』、『サカサマのパテマ』の吉浦康裕の新作です。

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 ここで「えっ、あの吉浦監督の新作!? それは見なくては」となるのはかなりディープにアニメを見ている人でしょう。

 いまのところ、吉浦さんの名前はそこまでメジャーではなく、この『アイの歌声を聴かせて』もそこまであたっているようには見えません。

 おそらく、興行的には『パテマ』などと同じくこのまま埋没していく運命かもしれません。

 ちなみに『パテマ』もワンアイディアでぐいぐい押していくカルトなSFアニメの傑作なのですが、それもまたべつの話。

物語のあらすじ。

 まあ、とにかくあまり世間一般にはウケそうにない作品ではあります。

 いまのところ、限られたアニメファンや批評家以外のところまで評価が届いているようにも思えません。

 ですが、さいしょに書いたようにこれが傑作なんですわ。この文章を読まれた方にはぜひ、観に行ってほしいですね。

 映画批評家のノラネコさんは『君の名は。』くらいお客が入っても良いといっています。たしかに!

 それでは、いったいどのような映画なのか? 簡単に語っていきましょう。

 物語は、AIが生活に入り込み、あたりまえのものとなった時代に、AI関係の大企業ホシマ・エレクトロニクスの企業城下町に暮らす少女サトミの学校へひとりの少女がやって来るところから始まります。

 なぜかサトミの正体を知っていたり、とつぜん歌い出したり、かぎりなく奇妙な行動をとるその子の正体は、じつはロボット(アンドロイド、ではなくガイノイド)だったのです――というのが冒頭の筋書き。

 超高度な能力を持ちながらフカカイな言動を取るその美少女型ロボット・シオンはところかまわず歌い出し、サトミを幸せにするといいはる。

 いったい彼女は何を考え、思って、そのような行動を取っているのか? そのなぞを巡って、物語は進んでいきます。

 と、書くといかにも硬いSFのようですが、じっさいには中盤まではミュージカルを交えた青春もの。

 シオンのとっぴな行動を軸に、サトミを含む五人の少年少女たちのアオハルな日常が交錯します。

素晴らしき哉、ミュージカル。

 シオンを演じるのは土屋太鳳で、これが歌うシーンも含めてじつに素晴らしい演技を見せてくれています。

 あるいは演技指導の賜物もあるのかもしれないけれど、とにかく凄くキャラクターにマッチしている。

 この映画は彼女の存在を除いては考えられないことでしょう。

映画『アイの歌声を聴かせて』歌詞付きMV♪土屋太鳳「ユー・ニード・ア・フレンド 〜あなたには友達が要る〜」|10.29 ROADSHOW

 シオンが歌い出すと彼女にハッキングされたまわりの機材が音楽を奏でだすのは、「なぜかとつぜん歌い出す」というミュージカルあるあるを逆手に取っているわけですが、とても効果的で印象的な場面となっています。

 そのなかでも物語中盤、サトミが幼なじみのトウマと向き合うところはそれまでの展開もあって、もう盛り上がる、盛り上がる。

 いや、ミュージカルって、音楽って、ほんとうに良いものですよね。

 ところが、そこで一転、状況はブラックアウトし、波乱の終盤へと向かっていくことになります。い、いったいどうなるんだ!?

 いやまあ、しょうじきいうと、その先には特にSF的に新しい展開が待ち受けているわけではありません。

 SFとしてのアイディアでいえば、80年代とか90年代のレベルではあると思う。

 しかし、ひたすらにアイディアの独創性を追い求める「いわゆるSF」とは違って、この映画にはあたたかさがある。

 はたしてシオンの人工知能は何を考えて行動しているのか? そのアンサーはセンチメンタルといえばそうだし、「さすがにそんなことは起こらないだろ」という気もするのだけれど、やはり感動的。

 未来への期待を感じさせます。

SFの魅力は「想像力の飛躍」に尽きるのか?

 これはまたべつの機会に語るべきことかもしれませんが、ぼくはどうもアイディアのオリジナリティを突き詰めるSF的な発想に疑問があって、「ほんとうにそれで良いのか?」と思うところがあるのですね。

 スワニスワフ・レムやグレッグ・イーガンといったハードSFの巨匠たちの天才に疑問の余地はないのだけれど、一方で「どれだけ現在から遠くまで行けるのか」という一点だけでSFを評価するべきではないのではないか、という思いがある。

 その意味で、『アイの歌声を聴かせて』はとくべつに新しくはないし、現代SFの文脈で評価されるものではないのかもしれないけれど、でも、とても良く「幸せ」について考えさせるところがある。

 人間にとって「幸せ」とは何なのか? 「幸せ」を求めるとはどういうことなのか? そういうテーマ。

 シオンはロボットではあるのだけれど、どこまでも一途にサトミの幸せを追い求めつづける。

 その果てに待つものは、人間と人工知能の幸福な未来。あまりにも楽観的な展開と思う人もきっといるだろうけれど、ぼくとしては高く評価したい。

 高度な人工知能の中身は高度であればあるほど、人間の理解を絶したブラックボックスで、だからこそぼくたちはそこに恐怖を抱くのだけれど、はたしてそれは正しいのか? 

 考えさせられる問題ですね。

 いずれにしろ、きわめて映画としての完成度が高い一作です。オススメ。

 ちなみにこの映画のキャラクター原案を務めているのは代表作『海辺のエトランゼ』がアニメ化されたことでも知られるBL作家の紀伊カンナさん。

 『海辺のエトランゼ』はBLなのにやたら女の子が可愛い一作でしたが、今作のキャラクターも良くできていると思います。

 ぜひ映画館へかれらに逢いに行ってみてください。そこに、アイの歌声がひびいていることと思います。

『アイの歌声を聴かせて』が大傑作である5つの理由|過去最高の土屋太鳳が爆誕! | CINEMAS+
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