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アニメ『その着せ替え人形は恋をする』第一話感想/レビュー。「好き」は正しい!

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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『その着せ替え人形は恋をする』第一話、文句なし!

【新品】その着せ替え人形は恋をする 1 スクウェア・エニックス 福田晋一

 CloverWorksによる、福田晋一『その着せ替え人形は恋をする』のアニメ版第一話が放送されました。事前の予告編である程度の想像はできていたのですが、これが、素晴らしいクオリティ。

TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」第1弾PV
TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」第2弾PV

 単に作画が安定してハイレベルであるだけでなく、演出意図のひとつひとつが原作へのリスペクトを感じさせるものに仕上がっていました。

 何しろ大好きな作品なので、このレベルで映像化されたことはとても嬉しいです。

 古いアニメオタとしては、ほんとうに原作付きアニメの水準は上がったなあ、と感心してしまいますね。

 「おまえ、原作読んでいないだろ」みたいなアニメ化、なくなったものな(トオイメ)。いや、すごいすごい。

 そういうわけで、この後はネタバレ込みでアニメ版の感想を書いていきたいと思います。

 今期の「覇権」を狙える位置につけた素晴らしい作品なので、ぜひ、皆さんも見てください。

 ほんとうに待望のアニメ第一話で、原作の第一話を最初から最後までほぼそのまま描いています。ちなみに、原作第一話はスクウェア・エニックスのサイトから読めます。

その着せ替え人形は恋をする 第1話 | SQUARE ENIX
五条新菜は雛人形の顔を作る「頭師」を目指して修業中の男子高校生。趣味や好きなものが同年代と違うせいでクラスに馴染めない生活を送っていたある日、いつも友人の輪の中心にいる喜多川海夢と思いもよらない接点が出来て……?

 もちろん、いくつか変更されている個所も見られるものの、基本的には原作に忠実な映像化だったと思います。良いですね。

メインスタッフ/キャスト

・スタッフ

原作:福田晋一
監督:篠原啓輔
副監督:平峯義大
シリーズ構成・脚本:冨田頼子
キャラクターデザイン:石田一将
メインアニメーター:髙橋尚矢
衣装デザイン:西原恵利香

・キャスト

喜多川海夢:直田姫奈
五条新菜:石毛翔弥

アニメ第一話あらすじ

 主人公である五条新菜(ごじょう わかな)はひな人形の頭師(かしらし)である祖父を尊敬する高校生。将来は自分も頭師を目ざしています。

 しかし、かれにはその特異な趣味/仕事のため、学校でクラスに溶け込めないという悩みがありました。

 祖父にはもう友達もいて仲良くやっているとウソを吐いているものの、じっさいには昼休みにしゃべる人間のひとりもいない始末。

 そんな新菜にとって、いつもクラスの中心にいて、花やかに注目を集めている喜多川海夢(きたがわ まりん)は「真逆の世界に生きている」と感じさせる存在であり、決して交わることがないように思われていました。

 ところが、あるとき、ちょっとした偶然からふたつの人生は交差することになります。

 自宅のミシンが壊れた新菜が、学校のミシンを使っていたところ、そこへ海夢が入って来るのです。

 人形に対して異様なまでの執着を見せるところを彼女に見られ、思わず「終わった……」と感じる新菜。

 しかし、海夢はそれを咎めるどころか、かれがミシンを使えることに感動した様子で、自分はコスプレが趣味であり、そのための服を作ってほしいと頼み込むのです。

 自分の趣味に対して一切偏見がない海夢に感心した新菜は、その役割を引き受けることに。

 ですが、彼女が口に出したコスチュームの原作は、いかにも怪しいタイトルのエロゲだったのでした……。

「オタク自己言及」作品の歴史。

 そういうわけで文句なしの第一話だったわけですが、未見の方のために、この作品の魅力について解説していきたいと思います。

 この『着せ恋』は、あらゆる「オタクネタ」マンガ/ライトノベルの最新、最高の作品だと思っています。

 いままでも『げんしけん』、『NHKにようこそ!』、『ヲタクに恋は難しい』など、オタクを主人公にした一種の自己言及的な作品はいくつもありましたが、『着せ恋』はそのなかでも最も新しい内容となっているのです。

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 それは、ただ単に発表時期的に最新であるというだけではなく、何より「価値観」が新しさを感じさせます。

 この作品の素晴らしさは、何といっても「人の「好き」をバカにすることは間違えている」という、シンプルで力強いテーマが一貫していることに尽きる。

 あたりまえといえばまったくあたりまえの価値観ではあるのですが、いままでの作品はそのことを示すことができなかったのですよね。

 たとえば、「オタクネタ漫画」として、やはり最新に近い『ヲタ恋』でも、ヒロインは「オタク」であり「腐女子」である自分を職場で隠しています。

 『ヲタ恋』ほど革新的な作品であっても、「オタク趣味」は恥ずべき、隠すべきものであるという感覚がどこかに残っていたということです。

 それに対し、『着せ恋』では、海夢は自分の趣味を小ばかにしたあいてのことを、「おめーがねーわ」と一蹴するのです。

 その趣味を愛好している自分が悪いのではなく、それをバカにするあいてのほうがおかしい。これは趣味に対するほんとうに新しい態度です。

 「オタク」や「趣味」に対する考えかたが根本的に変わってきたことを感じさせます。

『俺妹』と比較してみる。

 この作品と比較して、最もわかりやすいのは往年の名作ライトノベル『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でしょう。

 この作品もやはり学校で注目を集める美少女でありながら、妹もののエロゲが好きでしかたないヒロインを描いていましたが、海夢と異なり、彼女は周囲に趣味を隠しています。

 つまり、この時点では、「リア充」的な自分と、「オタク」的な自分とは分裂していて、両立させることはむずかしかったということがわかります。

 『俺妹』の作中には、やはり彼女の趣味をばかにする人物が出て来たりもするのですが、ヒロインは海夢ほどには決然と自分の趣味を誇ることができません。

 こうやって見てみると、『着せ恋』がいかに斬新な作品であるかがわかります。

 かつては、「マイナーでアンダーグラウンドな趣味」を持っていることは恥ずべき、隠すべきことであり、「オタク」は自分の趣味に対し葛藤を抱えざるを得なかった。

 そして、「スクールカースト」の中心にいるような「リア充」は明確に「敵」だった。

 その対立は、『僕は友達が少ない』や、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』といった作品で、ある種の「階級闘争」として描かれて来ました。

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 それらの構造をかなりのところ超克した『ヲタ恋』などは非常に新しく、だからこそベストセラーになったわけです。しかし、『着せ恋』はそれよりもっと新しい。

 この作品のヒロインである海夢は、あたりまえのように「リア充」と「オタ充」を両立させ、楽しく人生を生きています。

 主人公の新菜は、自分の趣味にうしろめたさを抱いていますが、やがてさまざまな人との出逢いを通して、「それは自分の他者に対する偏見に過ぎなかったのではないか?」と気づいていきます。

 きわめてリベラルというか、爽快なまでに自由で平等な趣味に対する価値観があるわけです。すごいですね。

「好き」は正しい。

 この第一話で、海夢は自分の趣味を小ばかにしてきた「イケメン」に対し、「人の「好き」をばかにすることはおかしい」という態度を明確に示したわけですが、これはいわば歴史的な価値観の転倒だったわけです。

 いままでは、内心でばかにするほうが悪いと思っていても、それを口にすることはできず、内面でルサンチマンを高めていくばかりだったわけですから。

 この「「好き」は正しい。人の「好き」をばかにする人間がいるとしたら、そちらのほうがおかしい」という観念は、この第一話だけではなく、本編全編で貫かれています。

 いったいどこまでアニメ化されるのかはわかりませんが、アニメでもやはり踏襲されることでしょう。

 アニメを見ているだけでいじめられるという、絶望的な「暗黒時代」を生き抜いてきたおっさんオタクとしては、涙なしには見られないくらいの描写です。

 いや、ほんとにそうだよね、だれかの趣味をばかにするのっておかしいことなんだよね……。

 第二話以降で、新菜と海夢は少しずつ近づいていきますが、その過程で新菜は新しい世界に出会い、そして、自分が自分の「好き」を誇れずにいることに疑問を抱いていくことになります。

 この作品のメインテーマは、「好き」の徹底した肯定といって良いでしょう。

 「オタクネタアニメ」はここまで到達した。それでは、この先の作品はどう変わっていくのか? それも気になるところではありますが、とりあえずはもう、「オタク」と「リア充」、「陰キャ」と「陽キャ」といった対立軸は完全に無効化されている印象です。素晴らしい時代になりましたね。

 第二話以降も楽しみ。継続して視聴していきたいと思います。

 なお、内容は重なっている部分もありますが、『着せ恋』に関する過去の記事も読んでいただければありがたいです。

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