アニメマンガ

『セーラームーン』や『プリキュア』は「性的」か?

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

海燕をフォローする
アニメ
スポンサーリンク

『プリキュア』は「性的視線」を遠ざけている?

 「プリキュアは性的視線を意図的に遠ざけ、「女の子だから」という制約を打ち破った」と題する記事が話題になっています。

<炎上考>プリキュアは性的視線を意図的に遠ざけ、「女の子だから」という制約を打ち破った 吉良智子:東京新聞 TOKYO Web
10月11日は国際ガールズ・デー。「女の子だから」と教育を受けさせないなど、少女への性別や年齢による差別や社会的制約をなくそうと、国連...

 論旨としては、『ふたりはプリキュア』に始まる『プリキュア』シリーズは「「女の子だから」という制約を打ち破った画期的な作品」であり、キャラクターデザインも性的視線を遠ざけようとしている、いまの若い女子大生などはその影響を大きく受けている子も少なくない、といったものです。

 これに対して、「いや、『プリキュア』のデザインも十分に性的である」といった意見もあるようです。

 個人的にはあるイラストなりデザインが「性的であるかどうか」を明確に決定しようとすることには無理があると感じます。

 よくいわれるように、結局のところ、ある絵画が性的であるかどうかはその絵そのものに内在する条件によって決まるわけではなく、それを見る視線の性質によって決まる。

 性的に見る心があれば全身を布で覆っていても性的だと感じられるし、とくべつ性的と見なければたとえ全裸であっても性的ではない。そういうことでしょう。

「性的」なるものは内在しない。

 「いや、そんなわけがない!」と思われるかもしれませんが、ぼくたちは美術館に飾られている裸婦の絵を見ても、特に性的とは感じないことも多いのではないでしょうか。

 それはそういった絵画が高尚で芸術的だからではなく、ぼくたちがあえて性的なものを感じようとして見ていないからです。

 その反対に、もともとは性的ではまったくないはずのセーラー服などにフェティッシュでエロティックなものを感じ取る人は数知れない。

 したがって、『プリキュア』や『セーラームーン』のキャラクターデザインが性的であるか否かは決定することができないと考えます。

 性的だといえば性的だし、性的でないといえば性的ではない、その程度のものでしょう。

 さて、それとはべつに、上記の記事に『美少女戦士セーラームーン』に関連する記述がないことを指摘し批判する声もあるようです。

セーラームーンが世界中でヒットしたのは「女子の素直な欲望を、性的な部分も含めて肯定した」から?
プリキュアはプリキュアで正しいと思う

 たしかに、『プリキュア』はそれ以前の作品に比べ、わりあい「政治的に正しい(保守的なお父さんやお母さんにも受け入れられやすい)」かもしれませんが、決して突然変異的にいきなり出て来たわけではないので、この指摘は正しいと思う。

 ただ、『セーラームーン』に関する表現は、賛否を呼ぶところではあるでしょう。

 この件に関しては、ぼくは特に意見を持っていないので、コメントを避けようと思います。

『プリキュア』とポリティカル・コレクトネス。

 しかし、『セーラームーン』が性的な放縦さを抱えているかどうかはともかく、『プリキュア』がある種の「政治的正しさ」を志していることはどうやらたしからしい。

 『プリキュア』シリーズに関しては、「プリキュアタブー」と呼ばれる禁忌の存在がまことしやかに囁かれています(スタッフのインタビューなどによって裏取りされているものもある)。

プリキュアタブー
プリキュアタブーとは、15年以上の長い歴史を誇る「プリキュアシリーズ」に存在する暗黙な了解である。

 また、『プリキュア』はジェンダーの側面についても比較的リベラルであることで知られています。

 『セーラームーン』が「美少女戦士」であり、ルッキズムを全面に出していることに比べると、やはり『プリキュア』には『セーラームーン』と差別化しようとする意図があったように思われてきます。

 その結果、『プリキュア』はある種、「安全」な、「正しい」作品にしあがり、安定した人気を得て長期シリーズになっていったわけです。

 これは原作付きの『セーラームーン』が莫大な人気を獲得しながら数年で完結したこととは対照的かもしれません。

 シロウト目で見てみても、どこかに妖しい夜の気配を抱えた『セーラームーン』に比べ、『プリキュア』にはいかにも「健全」な印象があります。

 そのいずれが正しくいずれが間違えているというものではありませんが、たしかに『プリキュア』の健康さを語って『セーラームーン』の妖しい魅力を語らないことは片手落ちであるかもしれませんね。

『セーラームーン』への「男性向け」の影響。

 もうひとつ『セーラームーン』についていえるのは、男性向けの戦闘美少女ものの影響です。

 これは明確に指摘することはできませんが、たとえば『幻夢戦記レダ』(1985年)などの隠然たる影響が1992年連載開始の『セーラームーン』にはあるのではないかと思うのです。

 男性向け、女性向けとひと口にいっても、じっさいにはそれらは明確に分かれているわけではなく、互いに影響を与え合いながら連綿と歴史を紡いでいるわけであり、『セーラームーン』にそれに先行するオリジナル・ビデオ・アニメーションの影響があってもべつだんおかしくはありません。

 そういう意味で、『セーラームーン』にはやはり「大人の男性の視線」を意識しているところがあるのではないか。

 『セーラームーン』にどこかエロティシズムがただようとすれば、それは、そういうところにも理由があるのではないか。

 そんなことを考えます。

 もちろん、これはだから悪いということではありません。

 ただ、『セーラームーン』をあくまで女性向け「だけ」の文脈で見ようとすると、かならずしも全体を捉え切れないのではないかと思うのです。

 その前には『キューティーハニー』があり、『ダーティペア』があり、さらには『リボンの騎士』がある。

 簡単に「見た目が性的か否か」というジャッジを行うのではなく、そういう歴史のなかで見ていくことが大切なのでしょうね。

女児アニメはどこまで「健全」であるべきか。

 まあ、たとえ「女性向け」とされる作品でありデザインであろうと、じっさいにはそれが女性なり少女を描いているものである以上、男性の視線を完全に避けることはできません。

 また、当然ながら女性にも性的な視線で捉える人はいます。

 そして、子供であっても、いくらか早熟な女の子なら『セーラームーン』に性的なものを感じ取っていても不思議ではないでしょう。

 また、『セーラームーン』はいわゆる「百合」同人誌の最初期のものを生み出した作品でもあります。

 このとき、その種の作品を描いていたのは、女性が中心だったように思います。

 つまりは女児アニメは何重もの意味で「キモくていやらしい大人の男性の目線を避けているものが正しい」とはいえないわけです(だれもそこまではいっていないかもしれませんが)。

 大人が子供向けの作品に「正しい」ものであってほしいと願うことは当然といえば当然でしょう。

 しかし、子供たちはかならずしもそういう「おとなしさ」を望まない。そこに大人と子供の対立がある。

 『プリキュア』はその意味で、非常にバランスが取れたシリーズなのではないかと思います。

 ぼくはそれほどくわしいわけでもないので(ごめんなさい)、これから視聴していきたいと思います。

 すでに完結している『セーラームーン』はまだしも、『プリキュア』は膨大なので、とても端から見ていけるとは思いませんが、でも、なるべくがんばろう。

 とにかく素晴らしい作品には、違いないのですから。

つばめ<br>(看板娘)
つばめ
(看板娘)

この記事が面白かったら、Twitterやはてなブックマークなどでご意見お願いします!!! 読んでもらうことが書き手の生きる糧です。

リンク集

 Twitter、YouTubeなどのほか、複数のLINEオープンチャットの運営もしているので、ご自由にご参加ください。ご意見、ご感想、お仕事の依頼などはサイドバーのメールフォームからお願いします。

・Twitter:

https://twitter.com/kaien

・YouTube「プロブロガー海燕の光速レビュー」:

プロブロガー海燕の光速レビュー
光速レビューはスマートでディープなオタクライフを通して人生を楽しむ達人になることを目ざすチャンネルです。 マンガ、アニメに始まって、ミニシアター映画、海外文学に至るまで、批評系プロブロガー「海燕」がさまざまなオタク知識を日々、発信しています。 夢中になれる趣味がないとお悩みの方、ぜひこの放送をご利用ください。定期的...

・サークル〈アズキアライアカデミア〉公式サイト:

アズキアライアカデミア | 「面白い」をもっと自由に
【プロフィール】 AzukiArai Academiaは同人誌発行とイベント開催で活動するコンテンツ批評サークルです。主なメンバーはLD、海燕、ペトロニウス、まぎぃ。

・オープンチャット「哲学宗教サークル〈Something Orange〉」:

哲学宗教サークル〈Something Orange〉
人生の意味、あるいは無意味とは? この世に「真理」はあるのか? そんな答えの出ないアポリア(難問)について「哲学」や「宗教」で考えるサークルです。その種の他では話しづらい問題についてどうしても考えてしまう皆さん、ぜひご参加ください。怪しいカルト集団への勧誘などは禁止していますので、ご心配なく。

・オープンチャット「庵野秀明/スタジオカラー作品チャット」:

庵野秀明/スタジオカラー作品チャット
タイトルの通りです。庵野秀明監督とスタジオカラーの作品について話をしています。ログは無理に読まなくてもかまいません。入退室も自由。楽しくお話ししましょう。

・オープンチャット「オンラインオープンダイアローグでお悩み解決!」:

オンラインオープンダイアローグでお悩み解決!
いま話題の対話方法〈オープンダイアローグ〉をオンラインで実践するチャットです。 時々、〈オンラインオープンダイアローグ〉を開きます。 管理人に専門知識があるわけではないので〈なんちゃってオープンダイアローグ〉ではありますが、それでもさまざまな悩みを解き明かすことができるかも。 みんなで悩みを解決しよう!

 海燕による電子書籍もKindleにて発売ちうです! 良ければお買い求めください。また、Kindle Unlimitedでもお読みいただけます。よろしくお願いします!

タイトルとURLをコピーしました