自己啓発書ばかり?「『読書の秋』に読みたい本100選」を読んでみた。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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自己啓発書やハウツーばかリ?

 以下のような内容のツイートが話題になっている。

何度でも言います。本を読もう。お金・健康・人間関係・夢…。苦しい時に助けてくれたのはいつも本でした。文化庁が調査した国語に関する世論調査によると、週1冊読むだけで上位15%、2冊読めばそれだけで上位5%に入ることができる。そして、人生を豊かにしている人たちはこの5%の人たちと一致する

https://twitter.com/yamachan_5LC/status/1444059549564952577

 元のツイートはすでに消去されているようなので、引用したまとめサイトも貼っておく。

「自己啓発本100冊」を紹介するツイ民にネットが大荒れ「これはキツイ」「こち亀200巻の方がいい」 | まとめまとめ
何度でも言います。本を読もう。お金・健康・人間関係・夢…。苦しい時に助けてくれたのはいつも本でした。文化庁が調査した国語に関する世論調査によると、週1冊読むだけで上位15%、2冊読めばそれだけで上位5%に入ることができる。そして、人生を豊かにしている人たちはこの5%の人たちと一致する。

 もう消されたツイートをあえて話題に挙げるのは問題かもしれないが、興味深い内容でもあり、すでに各所に引用掲載されていることもあって、ここで取り上げることを許してほしい。

 おおむねその通りで、「読書は大切だよね」と思うツイートだと思うのだが、そこで挙げられた本のセレクションが問題とされた。100冊の本がすべて「自己啓発書(自己啓発本)」だというのである。

 もっときびしくあからさまに見下し嘲っているツイートも見つかるが、引用はやめておこう。気分が悪くなるだけだから。

ほんとうに全部「自己啓発書」なの?

 これらのツイートを見ていてまず感じたのは、ほんとうにこの100選で取り上げられた本はみな「自己啓発書」なのだろうか、ということである。

 100選のすべてを読んだ人はまずいないだろう。それなのに、なぜ、これらが一様に「自己啓発書」であるということを断言できるのか。ただカバーやタイトルの印象だけで語ってはいないだろうか。

 もちろん、表紙と題名を見るかぎり、ある種の傾向が見て取れることは事実だろう。読まなくても内容がわかりそうな本も含まれていることはほんとうだ。しかし、このセレクトすべてを一律に「自己啓発書」と呼ぶのはかなり無理があるのではないだろうか。

 たとえば『FACTFULNES』は世界情勢の実際のところをデータとともに語って読者の偏見を正そうとする本だし、『ブッダ 今を生きる言葉』はあきらかに宗教書である。

 まあ、たしかにこれらも最も広い意味でなら「自己を啓発する」内容であるといえるかもしれないが、そのような枠組みはあまりにも広すぎて意味を為さないだろう。

 そもそも自己啓発とは何なのか。Wikipediaには、このように書かれている。

自己啓発(じこけいはつ)とは、自己を人間としてより高い段階へ上昇させようとする行為である。「より高い能力」、「より大きい成功」、「より充実した生き方」、「より優れた人格」などの獲得を目指す。

たとえポルノと呼ばれはしても。

 この意味での「自己啓発」へ誘うたぐいの本は、安易な「キャリアポルノ」として、読書家には忌み嫌われている。だからこそ、今回も、くだらない本ばかりが取り上げられていると侮蔑と嘲弄のあらしが巻き起こったわけだ――じっさいに読んでもいないのに。

 そう、本は、一見してどれほどくだらなく見えたとしても、ほんとうは読んでみるまでわからない。「読まなくてもわかるよ」と主張する人もいるかもしれないが、ぼくにはやはりそれは傲慢な思い上がりに過ぎないように思われる。

 本は読むためにあるのであり、趣味が良いの悪いのとマウンティングをしていい気分になるためにあるわけではない。

 とはいえ、ぼくじしんが読みもせずそういうことをいってもむなしい。そこで、100選から何冊か選んで自分で読んでみることにした。

 ほんとうは100冊すべてを読んでみれば良いのかもしれないが、そのためにはさすがに時間と手間がかかる。なので、まず手始めに、個人的に興味が湧いた本を読み、既読の本と合わせてここに感想を書いておく。合計10冊ほどである。

 はたして、ほんとうにこのリストが無意味で無価値なものなのか、それで少しはわかるだろう。あとで残りの本を読んだときには追記する。

 読んでみたらほんとうにつまらない本かもしれないが、そうではないかもしれない。時間を無駄にしたと思うかもしれないが、やはりそうではないかも。何にせよ、本は読んでみてなんぼなのである。

 読書に時間を費やすことは、ひとの作ったオススメを上から目線でバカにしているより、少しはマシなことであろうと考える。

 以下、本の内容と感想。

『嫌われる勇気』

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 ご存知の方も多いだろう、アドラー心理学ブームを巻き起こした名著である。ぼくも発売後すぐ、ブームになるよりすこし前に入手して、耽読した。

 内容的には、タイトルに表れていることがすべてであって、「ひとに嫌われることを恐れずに、自分の道を進め」ということが、「対話篇」の形式で、かずかずの逆説とともに語られている。

 「自己啓発の源流」とされるアドラー心理学の教えが、つぎつぎと持ち出されては強烈な批判を受けるところが面白い。読者は、読んでいてすぐに抱くたぐいの疑問や批判が、じっさいに本のなかで繰りひろげられると安心し、納得し、その内容への信頼感が増すわけである。

 思想的にはギリシャ哲学からつながるクラシックな内容であり、著者も心理学の専門家であるから、信頼を措いても問題ないと思われる。ぼくじしん、大きな影響を受けた一冊といえる。

 もちろん、その内容を実践することはそう簡単ではないのだが、それは、いわゆる自己啓発書すべてにいえることではあるだろう。

『幸せになる勇気』

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 いかにも地味なカバーであり、とくべつ宣伝が繰りひろげられたわけでもないにもかかわらず発売後まもなくミリオンセラーを突破し、海外でもヒットを続けている前掲の『嫌われる勇気』の続編だ。

 『嫌われる勇気』においてアドラー心理学の神髄にふれ、人生の希望を得たはずの若者が、ふたたび懐疑の雲に包まれて、哲人と対話を展開する「勇気の二部作」の後編である。

 『嫌われる勇気』の衝撃はすでにないが、内容的にはそれに負けず劣らず面白い。この二部作を読んで、その通りに生きたなら、たしかに自由な人生が手に入るだろうとぼくは思う。

 しかし、繰り返すが、じっさいにアドラー心理学の教えをそのままに活かすことは容易ではない。この本を一読すればそのときは「勇気をもって前へ進もう」と思えるかもしれないが、それはなかなか持続しないだろう。

 だが、本とはべつだん自己啓発書でなくても、本質的にそのようなものであるように思われる。大切なのは長期的な影響であり、短期的な効果ではないのだ。

『LIFE SHIFT』

 すべてが変化する人生100年時代の生き方を示唆した本である。これも、たしかに広い意味では自己啓発書に入るかもしれないが、ふつうに考えたら自己啓発的な内容とは少し違っているように思われる。もちろん、厳密な自己啓発書の定義があるわけではないので良いのだが……。

 いまから数年前に翻訳、刊行された本だが、発売してからしばらくして話題になっていたので、ぼくはそのときに読んだ。非常に面白い本だと感じた。

 一種の未来予測本の類で、もちろんこの本に書かれたとおりの未来が訪れるとはかぎらないわけだが、それでも読んでおくとある程度は「人生の準備」ができるのではないかと思う。個人的にもお奨めの一冊である。

 ネガティヴな意味で狭い範囲を扱った一般的な自己啓発書と違って、著者の視野はワールドワイドで、世界各地に住む人々がどのような問題を抱え込むことになるか、クリアに描きだしていく。非常に示唆に富む内容だ。

『FACTFULNES』

 これも話題になった本だが、ほぼ完全に自己啓発書とはいえないんじゃないかな。すくなくとも、狭い意味での自己啓発からは大きく外れた内容である。もちろん、より広い意味で「自己」を「啓発」する内容だということはできるのだが。

 さて、著者はいくつものデータを用い、読者の頭のなかにあるバイアスを取り払っていく。その背景にあるのは、「世界は劇的に良くなっているし、これからさらに良くなっていく」という思想、否、かれがいうところのファクトフルネスである。

 ぼくたちはどうしても世界はどんどん悪化していて、人類滅亡ももうすぐそこだ、というふうにしか考えられないところがある。著者によれば、それはただの思い込みであるに過ぎない。

 じっさい、かれは無数の数字を示して、客観的事実を提示する。それを頭から信じ込んでしまうのもどうかとは思うが、とにかく新しい視点を拓いてくれるのは間違いないだろう。これもまたとても面白い本だ。

 日本版ファクトフルネスとして刊行された『超加速経済アフリカ』と合わせて読むと面白いかもしれない。

『人生がときめく片づけの魔法』

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 アメリカで大成功を収めた「コンマリ」こと近藤麻理恵のベストセラー。ネットフリックスで番組を持っていたりするから知っている人は多いであろう。

 洋服や本など、ほとんど無限に増殖していくかに思え、しかも捨てることがむずかしい品のかずかずをどうやって処理するかという方法論が書かれているわけだが、モノに対する「ときめき」を重視し、「ときめく」ものだけを残してあとは捨てなさい、と指示する彼女のやり方は、ぼくには一種のアニミズムであるように思える。

 じっさい、人類学者の奥野克己は『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』という著書のなかで、彼女のことを「片付けの谷のナウシカ」と呼んでいる。

 ちょっと苦しいダジャレだが、なかなか面白い視点だと思う。個人的には、本の片付け方の項目が興味深かった。そう、ぼくも長いあいだ、どうしても本を捨てられない人だったのである。

『Think CIVILITY』

 この本は以前から読みたいと思っていたので、今回の企画にあたって迷うことなく手に取った。ビジネスの現場における「礼節」の大切さを語った一冊である。

 だれでも、上司や顧客に対して礼節を守ることが大切であることはわかる。しかし、同僚や部下に対してはどうだろう? つい、無礼な態度を取ってしまったりするのではないだろうか。

 この本では、そういった態度を取ることは長期的にはかならずマイナスになる、つまり「礼儀正しさ」こそが最適な生存戦略であるということが縷々語られている。

 「リーダーから率先して礼儀を守る」ことが大切だとも書かれているが、これはたしかにそうだろうなあと感じる。リーダーなのだから無礼に振る舞ってもかまわないかもしれないが、それはかならず反感を産むだろう。

 本書のなかでは、スーパースターのマイケル・ジョーダンまでが礼儀正しく振る舞った、という一節があり、説得力を感じさせる。

『苦しかったときの話をしようか』

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 これは、イヤな本だった。いかにも傲慢なエリートビジネスマンが書いた内容という感じである。たとえば、以下のような一節がある。

「法的に(殺されない権利という意味で)すべての人の命を平等に扱うのは人権の基本概念ではあるが、人の命の価値がみんな平等だと心の底から信じている人は、完全にお花畑に住んでいることになる。現実には人の命の価値は同じではなく、厳然とした差がある。概念的な話としてどう思いたい人がいても構わない。私の目はただ現実を見ている。その人が死んで周囲が困る度合は、人によって雲泥の差がある。」

 このような記述に疑問を抱かない人だけ読んでいただければよいと思う。「人の命の価値」と「その人が死んで周囲が困る度合」を同一の概念として見るのは、ぼくにははなはだおかしいように思われるが、そういうふうに感じない人もそれはいるだろう。

 まず自分からは読まない本だったので、貴重な読書体験をしたと思うことにしよう。

『読んだら忘れない読書術』

 今回、手に取って読んだ本のなかで、いちばん驚かされたのはこれだった。YouTubeなどで活動している精神科医の本なのだが、そのなかで、読書嫌いだった自分が変わったのは、栗本薫の『グイン・サーガ』を読んだからだと書かれているのである!

 『グイン・サーガ』を一日で五冊読み、それで人生が変わったということが記されているわけだが、ぼくもまったく同じように一日で五冊の『グイン・サーガ』を読んだことがあるので、非常に共感した。

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 つくづく、本とは読んでみないとわからないものである。もし、「どうせ型通りの自己啓発書に過ぎないだろう」などというバイアスを持って読まなかったなら、かれが『グイン・サーガ』の愛読者であることを知り、親しみを感じることもなかっただろう。

 この一冊と出逢えただけでも、今回、「『読書の秋』に読みたい本100選」で挙げられていた本を素直に読んでみて良かったと思う。やっぱり読みもせずに本をバカにするのはダメだよなあ。

『1分で話せ』

 うーん。正直いって、今回読んだ本のなかで、これがいちばん内容が薄かったように感じる。典型的なビジネス書で、読みやすく、わかりやすいのは良いのだが、あえて読むほどの内容も、思わず読み耽りたくなってしまうほどの魅力もない。

 「ネットでバカにされているリストの本を端から読んでみたら、意外にも全部が面白かったです」といえれば良かったのだが、そういうわけにはいかなかったわけだ。

 ただ、これはぼくがビジネスとは縁遠いブログの世界に生きているからそう思うだけなのであって、ビジネス関連の本を求めている人にとっては有用な一冊なのかもしれない。

 ひっきょう、万人にとって面白い本などないわけであって、ぼくにとって無価値な本であっても、べつのだれかにとっては超有用かもしれないのだ。

 そういうわけで、ぼくにはあまり合わなかったが、まったくくだらない本だとは思わない。イイワケがましいかもしれないが、ほんとうにそう思う。

『ブッダ 今を生きる言葉』

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 最後に、この本を取り上げておこう。いまに伝わる釈迦(ブッダ)の言葉と、アジア全域の仏教遺跡の写真を合わせて掲載した仏教書である。

 「人生を変える力をもったひと言」を集めて載せたという意味では、まあ自己啓発書といえなくもないのかもしれないが、やはりぼくはこの本を自己啓発のくくりに入れるのは無理だと思う。

 そもそも、釈迦が生きた時代には自己啓発などという概念はなかったわけだし。

 ぼくはべつだん熱心な仏教徒ではないので、特に一読して心打たれるということもなかったが、それでも滋味あふれる言葉にふれていると、「空」の思想の意味がすこしわかってくるような気がする。

 仏教によれば、この世には実体とか本質と呼べるものはなく、すべては時とともに形を変えていく。西洋人はそこにニヒリズムを見て恐怖したというが、ほんとうはそれは希望の言葉なのだろう。すべては変わりゆく――しかし、何も、むなしくなどないのだ。

10冊を読み終えて想うこと。

 そういうわけで、100冊のなかから10冊を選びだして読み、語ってみた。

 今回は時間が足りなかったため、速読気味に読んでしまった本もあり、すべてを一様にていねいに読んだとはいいがたいので、あるいは不備や誤解などもあるかもしれないが、その点はご容赦いただけるとありがたい。

 読み終わってひとつ思うのは、多くの本は意外なくらい面白かったということである。

 もちろん、本文のなかで語った通り、自分には合わなかったと感じた本もある。しかし、樺沢紫苑さんの『読んだら忘れない読書術』のように、予想外の歓びを与えてくれた本もあった。

 まさにこれが、本を読むということだ。読書は、いつも正しく成果を得られるとはかぎらない。ときにはつまらない本、くだらない本、読んだ後、すぐにゴミ箱に捨ててしまいたいような本だってたしかにある。

 しかし、そういう本をも含めて、どんな本なのか読んでみるまでわからないことが読書の醍醐味なのだ。ただ退屈なだけ、凡庸なだけの人がいないのと同じく、どんな本にもどこかに面白く読めるところはある。

 読まずに否定してしまうことは、そういう本との貴重な出会いを殺してしまうことだ。

 読書家が「自己啓発書」やビジネス書を蔑む気持ちはわかる。じっさい、それらの本のなかに傑作や名著と呼ぶべきものは少ないだろう。

 だが、それでもやはり、本は読んでから判断するべきである。一冊の本はひとつの扉なのだ。それを活かすも殺すも、読む人しだいであると、ぼくは、信じる。読書の秋だ。いまこそ、本を読もうじゃないか!

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