寝ころびながら『月姫』をプレイする、この愉悦。
ども、今日も今日とてNintendo Switchで『月姫』をプレイしています。


いやー、まさかこれほど楽な姿勢で『月姫』を遊べる日が来ようとは、かつては想像もしていませんでした。コンピューターゲームマシンの進歩とTYPE-MOONの躍進が合わさって実現した奇蹟ですね。
セールス的にもかなりの数字を記録しているようで、昔からのファンとしては嬉しい限りです。
とはいえ、制作にかかっている手間を考えると、ソシャゲを作ったほうが遥かに儲かるのだろうなあとも思ってしまうわけで、いまになってこのコンテンツを家庭用で発信してくれた製作スタッフには感謝、感謝しかありません。
いやまあ、『月姫』というIP(知的財産)はこれからも「使いまわし」が効くのかもしれませんが……。
しかし、そうか、いまの若いユーザーは『月姫』がその頃、どのくらい大きなインパクトがあったのか知らない人も多いわけですよね。うーむ、月日が過ぎ去るのは速いもの。ぼくも歳を取るわけだ。
ぼくが初めて『月姫』と出逢ったのはいまから20年以上前のことだと思います。当時入りびたっていた掲示板でウワサになっていたのですね。
その頃はチュンソフトの『弟切草』に始まるいわゆる「ノベルゲーム」のひとつの最盛期で、『月姫』のほかにも話題作には事欠きませんでした。
とはいえ、『月姫』が「別格」だったのは安価な同人ソフトであったこと、そしてそのシナリオの圧倒的な独創性でした。
なぞの天才新人・奈須きのこ。
『Fate』が拡散し切ったいまとなってはシナリオライター・奈須きのこの才能を疑う人はほとんどいないでしょう。しかし、当時はまさに流星のごとくあらわれた「なぞの新人」に他ならなかったのです。
それまではまったくの無名だったその「なぞの新人」が生み出した驚異の物語は、何もかもが新しかった。
そのなかでも最もインパクトがあったのは、物体に宿る「死」を視ることができるという「直死の魔眼」、そして主人公がいきなりメインヒロインであるアルクェイドを惨殺してしまうという衝撃の展開だったでしょう。
「わたしを殺した責任、ちゃんと取ってもらうんだから」。いまでは『月姫』といえばこれという定番のセリフですが、その頃のショックはすさまじいものがありました。
もうひとつ巨大な印象を与えたのは、アルクェイド、シエル、秋葉、翡翠、琥珀と五人分のルートが用意されたそのボリュームです。
わずか2500円の同人ゲーであるにもかかわらず、その絶対的な分量は、新しいもの好きのオタクたちに「何か凄いことやっている奴がいる」という感覚を刻み込みました。ここら辺の話は『TYPE-MOONの軌跡』という本にくわしいところですね。
そして、それから数年後の2004年に『Fate/Stay night』が発表され、これがまたものすごい傑作であったことから、TYPE-MOONと奈須きのこの「覇権」はハッキリと確立されることになります。そして、それから色々あっていまに至るわけです。
『月姫』はパクリだっていわれていたんだよ。
で、いまとなっては完全に忘れ去られていることだと思いますが、『月姫』が出た当時は、そのシナリオの一部がLeafの『痕』に類似していたことから、『痕』のパクリだという人もけっこういたんですよ。
いまでは奈須きのこの圧倒的なオリジナリティはだれの目にもあきらかであるわけですが、その頃はまだそうではなかったのですね。
まあ、こういうことは驚異的な新人が出て来たときにはよくいわれることであって、たとえば『進撃の巨人』などについても、「こんなマンガ、すぐに忘れられるよ」とか「いま騒いでいる奴らは恥をかくぞ」などといっている人がいました。
シニカルにかっこつけているつもりで自分の見る目のなさを露呈しているという、情けない話ですね。そういう人はすぐに存在そのものが忘れられてしまうわけなんですけれど。
『Fate』とは部分的に共通する設定を持ちながら基本的にはべつの世界を舞台にしている『月姫』。
当時は天才的なエンターテインメンターとしての資質が粗削りというかほとんどむき出しの状態で露出しているようなゲームでしたが、20年の時を経てふたたびぼくたちの前にあらわれたリメイク版の『月姫』は、かつてとはまったく異なる完成度を誇っているように見えます。
何といっても、すべての完成度が高い、高い。特にシステムまわりはほんとうにストレスフリーで、ノベルゲームのひとつの頂点、完成形といっても良いのではないでしょうか。
何もかもハイクオリティに生まれ変わった新たな『月姫』。
もちろん、ひとつシステムだけではなく、演出も、文章も、すべてがハイクオリティです。特になめらかに読ませる文章力は20年前の奈須きのことは別人の趣きで、いまさらながらに「成長したなあ」と感慨ひとしお。
いや、ほんとうにうまくなった。まあ、この20年間でかれが書いて来た膨大な文章量を思えばそれも当然のことかもしれないけれど、『空の境界』あたりの稚拙さはいまでは影もありません。人間って、ここまで成長するんだなあ(感動)。
まあ、『Fate/Grnd Order』あたりできのこユニバースに触れた向きは、文章力なんてべつにどうだっていいと思っているかもしれませんが、やはりどうせなら文章は上手いほうが良い。
まして『月姫』は伝奇ものです。伝奇とはやはり、ピンと張りつめた、そして昏く凍えるような空気を感じさせてなんぼという世界。
その点、今回の『月姫』は、まだ終わってはいませんが、ものすごいクオリティですね。文章力といい、演出力といい、いままでのノベルゲームの限界を大きく塗り替えて来ていると思います。
ここから「あの場面」や「あのセリフ」が出て来るかと思うと、わくわくが止まりません。
いや、シナリオが全面改稿されて場面ごとカットされているというようなこともありえなくはないかもしれないけれど……。でも、きのこはそういうところではファンの期待を裏切らないからたぶん大丈夫だと思う。これが『エヴァ』だと何やらかすかわからないわけだけれど。
遠野家ルートは後回しのようだが……。
ちなみに今回の『月姫』に収録されているのは同人版『月姫』に入っていた五ルートのうち、アルクェイドルートとシエルルートのみのようです。
数々の新キャラクターたちを加えてシナリオボリュームが大幅にアップしているのでしかたないとは思いますが、早く「遠野家ルート」もプレイしたいなあ。
ただ、「遠野家ルート」は内容的にアルクやシエルのルートと比べてもダークでアダルトなので、はたしてそのままの形でNintendo SwitchやPS4で出せるのかどうか、微妙なところだと思います。
何しろ、〇〇〇〇が〇〇されたりしているからなあ。いくら18禁とはいえ、子供も遊んだりするSwitchで出せるものじゃない気が。でも、それをなくしちゃったら『月姫』が『月姫』じゃなくなっちゃうしなあ。
いったいどうすれば良いのか答えは見つかりませんが、まあ、それでもきのこなら! きのこならなんとかしてくれる! そういう目で見て期待することにしましょう(無責任なファン)。
なんにせよ、今回の『月姫』はあらゆる意味でTYPE-MOONの新たな最高傑作を更新する一作といって良いのではないかと思います。
20年の時をまたいでプレイしているオールドファンも、今回初めて『月姫』のことを知ったニューファンも、十分に楽しむことができる作品に仕上がっていることでしょう。じつに素晴らしい。ぼくもこれからゆっくりたっぷり楽しませてもらおうと思っているところです。
プロフィール
海燕(@kaien)。
1978年7月30日生まれ。生まれながらの陰キャにして活字中毒。成長するとともに重いコミュニケーション障害をわずらい、暗黒の学生時代を過ごしたのち、ひきこもり生活に入るも、ブロガーとして覚醒。はてなダイアリーで〈Something Orange〉を開始する。
そののち、ニコニコチャンネルにて数百人の有料会員を集めるなど活動を続け、現在はWordpressで月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員でもある。
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