ラーメン評論家炎上と「ホワイト・フラジリティ」。
ラーメン評論家の界隈が燃え上がっている。
この記事を読まれている方にはまったく事情を知らないという方はいないだろうが、一応、一から事情を説明しておこう。
問題は、梅澤愛優香さんという元女性アイドルのラーメン店経営者が、自店で「ラーメン評論家」を「入店拒否」指定したところから始まる。
ちょっと調べてみたところ、法的にはとくべつ問題はないようだが、やはり穏やかではない話ではある。その背景には以下のような事情があったという。
本来、評論家はさまざまな媒体でラーメン店の魅力をアピールしてくれる存在。しかし、その「ラーメン評論家」の入店を拒否するに至った経緯は何だったのか。
梅澤さんを直撃取材。26日にラーメン店を訪ねると、その理由を詳しく語ってくれた。
「一部の評論家の方を除いて、『ラーメン評論家』の人たちが私に対してセクハラ…あとは中傷、嫌がらせがあって入店をお断りする形に至りました」(以下・梅澤さん)
2年程前、梅澤さんとその評論家が共通の知人を交えて食事をしていた際に起きた“ある出来事”が入店拒否の発端となったという。当時を振り返り、梅澤さんはこう話す。
「その方(「ラーメン評論家」)が結構、お酒を飲まれていて…『写真を撮らせてください』と言われまして、そこでお断りをしたんですけど、『顔は写らないから、首から下の体だけ写真を撮らせてくれ』という感じで。そこで私が許可も出していないのに、すごく撮られて。結果その写真がどうなったのか、どういう風に使われるかもわからないままですし、女性の私としてはすごく気分が悪くなって…怖いです」
梅澤さんはこの出来事をセクハラと感じ、以来その「ラーメン評論家」とは関りを断った。しかし、約1年後の去年4月、その評論家が突然ブログに悪質な書き込みをしたという。
「バイトAKB!!これはヤバい。ここヤバい会社だけど、地元の某業者にお金払わなくて。さすがに仕事では絡めないラーメン店」
書き込みに対し、梅澤さんは「うちが(内装)業者の方へ支払いをしていないとか、あることないこと言われました。事実無根なので、間違っている情報を書かれました」と反論。去年4月の時点ではまだ店の内装工事の段階で、その後は問題なく料金を支払っていると説明していた。
(中略)
この件以外にも複数の「ラーメン評論家」からセクハラや中傷などを受けてきたと訴え、今回苦渋の判断で「評論家」の入店禁止を表明した梅澤さん。

なるほど、ほんとうだとしたら、ひどい話だ。しかし、この話はどこまで信憑性があるのか。
ぼく自身はべつだん疑うつもりはないが、「いくらなんでも少し大げさな話なのでは」と考えた人もいたようだ。ある時期までのTwitterではそのようなツイートも少なくなかった。
ところが、なんと梅澤さんから批判されているラーメン評論家が自ら名のり出たのである。その人物は「フードジャーナリスト」を自称するはんつ遠藤氏。かれは「梅澤愛優香さんに対する、はんつ遠藤の意見」と題する記事で、自らの立場を釈明する。
その文章が、いや、ほんと、あまりにもひどかった。
お世話になっております。フードジャーナリストの、はんつ遠藤です。
梅澤愛優香さんがラーメン評論家を出禁にしたという件でテレビ朝日「グッドモーニング」などで放送されてましたが、それ、僕です!
(中略)
これはひどい、はんつ遠藤。単なるエロおやじだ。
僕は本人だから分かるんですが、こいつは、昼間はそこそこイイ奴なのに(そこそこね)、お酒飲むと泥酔しちゃって豹変というか、飲み始めて30分くらいですぐにダメ人間というか、人格破綻者になっちゃう。トンデモナイことを言いだすし。
梅澤さんの件は、まだまだ良いほうですよ。他の女性とか、もっとひどい。
これをきっかけにMe Too!!でしたっけ?どんどん出てくるかも。。。

全文を読んでいただければさらによくわかるのだが、セクハラを行ったことを認めていながら、まったく悪びれる様子もなく、他人ごとのように「これはひどい」とか「梅澤さんの件は、まだまだ良いほうですよ」と語る様子は、醜悪としかいいようがない。
この文章を読んだ人たちが呆れ返り、はんつ氏が炎上したのは当然としかいいようがないだろう。「ここ10年で読んだ文章のなかで最も醜い」といい切る人もいるくらいで、ほとんど弁護のしようがない。梅澤氏の証言の正しさが結果として証明された形になった。
しかし、問題なのは巻き添えを食った形になるほかのラーメン評論家たちである。ほとんど一夜にして「ラーメン評論家」という存在が「社会の害悪」のように扱われることになったことについて、「ラーメン評論家」を自称する山本剛志さんはこのように嘆いている。
ぼくとしてはまあ無理もないだろうと思うツイートである。自分が何か悪いことをやって咎められるならともかく、ただラーメン評論家であるということそのものだけで集中砲火を浴びる、これはやはり何かおかしい。そう思う。
ところが、このツイートに対し、批判が巻き起こる。
山本さんは「ラーメン評論家が謂れもなくいきなり悪者にされたあの女店主腹立つ」なんてひと言もいっていないのだが、それでも「同じ穴のムジナ」扱いである。このいい分は納得がいかない。
とはいえ、たしかにある論点は提出されている。「ラーメン評論家であるなら、同じラーメン評論家の行動に対し批判する責任があるはずだ」という種類の意見である。この意見を、もう少し洗練された言葉を使って出している人もいる。
「ホワイト・フラジリティ」に「マイクロ・アグレッション」。聞き慣れない言葉だと思われる方もいらっしゃるだろう。これは、いずれも最近出版された本で紹介された用語で、「白人の心の脆さ」と「細かな攻撃行為」を指す。


こう書いてもわからない人のほうが多いと思うので、もう少し解説を加えると、「白人は白人であるだけで差別主義者であることになるにもかかわらず、そのことを認められない心の脆さ」と、「自分は差別主義者ではないと考えている人間がそれでも行ってしまう細かな差別・抑圧・侮辱などの行為」のことを示しているのだ。
評論家の杉田俊介さんはこう書いている。
つまり、「ホワイト・フラジリティ」とか「マイクロ・アグレッション」とは、ある体制において特権を持つマジョリティ(この場合は白人)は、たとえリベラルな反差別意識を持っていても、ただ生きているだけで差別主義者であり、その自覚をもって体制を変えていく責任を有する、と告発するための言葉なのだ。
上の青井ケイさんのツイートでは、ラーメン評論家もまたラーメン業界において不正な権威を持つ存在である以上、たとえ自身が差別やハラスメントを行っておらず、それどころかそれらの行為に反対していてさえ、一定の責任を持つことになるのだ、だから「自分はやっていない」などとイイワケせずに業界の健全化を行え、といいたいのだと思う(たぶん)。
さて、どうだろうか。あなたはこういった主張をどう考えられるだろうか。正直、ぼくは「ホワイト・フラジリティ」という言葉に初めてふれたとき、強烈な違和感をぬぐい去ることができなかった。
ある集団におけるマジョリティはすべて何らかの特権を有しているのだから、その差別的な構造を是正する責任を持つ。それくらいならわかる。納得できる。
しかし、「ある集団におけるマジョリティは生まれながらにして、ただ生きているだけで加害者であり差別主義者なのであり、その構造があるかぎり責任を逃れることはできない。このことを自覚し構造の是正に奉仕せよ」とまでいわれると、さすがについていけないものを感じる。
『ホワイト・フラジリティ』によれば、そういった「抵抗」を感じることそのものが「心の脆さ(フラジニティ)」なのであって、マジョリティはそれを乗り越えていくべきだとされているのだが、どうだろう、ほんとうにそうだろうか。
ラーメン評論家はただラーメン評論家であるだけでセクハラ中傷野郎と「同じ穴のムジナ」と見られ、自分がまったく差別を行っていなくても性差別主義者であることを受け入れなければならないのか。それはあまりにも過剰な責任ではないだろうか。
しかも、この「ホワイト・フラジリティ」型ロジックはほとんどあらゆることに適応できるのだ。
たとえば、前述の杉田氏は著書『マジョリティ男性にとってのまっとうさとは何か』のなかで、すべてのマジョリティ男性は、たとえリベラルな平等思想を抱いていても性差別主義者であるという意味のことを書いている。
ぼくにもこれはあまりにも過剰で不当な意識に思える。このような主張は、逆に差別の重さを軽んじさせるものではないのか。
これを読まれているあなたはどう思われるだろうか。白人は、男性は、ラーメン評論家は、あるいは日本人全員でも一定以上の資産家みんなでも良いが、そういった人間はただその立場に生まれたというだけで、マイノリティから何とののしられても我慢しなければならないのか。それがリベラルな「まっとうさ」なのか。何かがおかしくはないか。
ぼくはおかしいと思うのだ。これは世界を歪ませる思想ではないか。そう、ラーメン店主でもラーメン評論家でもラーメンヲタクでもない、一ラーメン好きのぼくは考えるのである。
だから、ぼくは問う。
ラーメン評論家ははんつ遠藤によるセクハラの責任を負うべきなのか?
あなたの答えは、どうだろうか。
プロフィール
海燕(@kaien)。
1978年7月30日生まれ。生まれながらの陰キャにして活字中毒。成長するとともに重いコミュニケーション障害をわずらい、暗黒の学生時代を過ごしたのち、ひきこもり生活に入るも、ブロガーとして覚醒。はてなダイアリーで〈Something Orange〉を開始する。
そののち、ニコニコチャンネルにて数百人の有料会員を集めるなど活動を続け、現在はWordpressで月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員でもある。
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