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新刊から代表作まで。石田衣良のおすすめ小説作品を並べてみた。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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はじめに

 「石田衣良」は、直木賞も受賞した現代のベストセラー作家のひとりです。

 その作品はきわめて多岐にわたり、SFから恋愛小説に至るまで、あらゆるジャンルで優れた成果を残しています。

 この記事では、この作家の魅力に迫るとともに、かれの代表作を一覧してみたいと思います。

石田衣良作品の特徴とは?

 それでは、そもそも石田衣良とはどのような作家なのでしょうか。

 かれの作品の特色は、ひとつには、先ほど述べたように、さまざまな、ほとんどあらゆるジャンルにわたって書かれていることにあります。

 本格ミステリや異世界ファンタジーにはいまのところ手を出してはいないようですが、いつか進出するかもしれません。

 そのくらい、エンターテインメント小説の多様なジャンルを制覇している印象があります。

 専門化が進む現代のエンターテインメント小説界において、このような作家は稀有だといって良いでしょう。

 そして、そのほとんどすべてのジャンルにおいて、一定の結果を叩き出していることも素晴らしい。

 そのクオリティはきわめて安定しており、出来不出来はもちろんあるにせよ、駄作はほとんどありません。

 そのアベレージの高さが、この作家の才能を物語っているといえるでしょう。

 そして、もうひとつの特色は、その作風の「淡さ」です。

 石田衣良の小説は、しばしば犯罪や性愛や激情を扱っているにもかかわらず、何とも淡々しい印象を受けます。

 決して印象が薄いわけではないのですが、どこか淡泊というか、情念に走り切らないところがある。

 それは言葉では説明しづらいものの、たしかに感じられる個性です。

 これはもう、技術ではなく、作家の人格、あるいは魂の色合いの問題なのでしょう。

 そうとしかいいようがないくらい、どのような素材を扱ってもかれの作品には「淡さ」がともなう。

 その結果として、石田衣良の小説にはたしかにある一定のリミットを越えない印象が付きまといます。

 したがって、あえていうなら、かれの作品は空前の大傑作には仕上がらない。その一歩手前まではいくのだけれど、そこで止まってしまう感じです。

 しかし、これはかれの天才性と裏表であり、まさにそうだからこそ人気を博している一面もあるので、むずかしいところです。

 ともかく、どんな題材の作品でもどことなく「淡く」感じさせる作風と文体は、作家・石田衣良の他にない個性だといって良いでしょう。

石田衣良の最新刊

 2022年1月現在の石田衣良の最新刊は『炎上フェニックス 池袋ウエストゲートパーク(17)』です。

 これは、デビュー作から連綿と続く『池袋ウエストゲートパーク』シリーズの最新作で、いままでと同じく、三つの短編と、ひとつの中編から構成された本です。

 そう、このシリーズは、そのすべての単行本に例外なく四つの中短編が収録されており、しかも、ほぼ一年に一作程度新刊が発表されつづけています。

 現状の出版界でもかなり類例の少ない、独創的な仕事といって良いでしょう。その内容については、下で解説しています。

石田衣良作品の映像化

 石田衣良の小説は、じつに多くがドラマや映画、アニメなど、映像化されて親しまれています。

 また、漫画化された作品も複数あります。

 最新の映像化作品は『池袋ウエストゲートパーク』のテレビアニメ版でしょうが、どうもこれはあまり評判が芳しくない様子です。

 逆にテレビドラマ版の『池袋ウエストゲートパーク』は、きわめて評価が高く、いま活躍している何人もの役者にとって出世作になっているようです。一部には「伝説のドラマ」という人も少なくないとか。

 また、『波のうえの魔術師』をドラマ化した『ビッグマネー!』も面白かったですね。

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石田衣良の代表作

 石田衣良はわりに多作な作家であり、また、先に述べたようにアベレージが高いため、代表作というべき作品がいくつもありますが、そのなかでも傑出した作品としてはやはり『池袋ウエストゲートパーク』シリーズと、『娼年』シリーズ、それに大長編の『北斗』あたりが挙げられることでしょう。

 また、短編の「約束」、「スローガール」なども忘れがたい逸品です。それぞれの作品についてくわしく解説します。

『池袋ウエストゲートパーク』

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 『池袋ウエストゲートパーク』は石田衣良のデビュー作であり、また、現在までも新刊が続く最大のヒット作でもあります。

 この小説は、池袋の町のウエストゲートパーク(西口公園)の近くの八百屋で働く青年・マコトを主人公にした物語で、現時点で17巻、68作が発表されており、しかもそれぞれの作品にはその「時代」が紛れもなく刻印されています。

 さいしょに発表されたのは平成のことであるわけですが、令和のいまになっても一定のクオリティで続いています。

 この作品の魅力はマコトの軽妙な語り口に尽きます。物語そのものはいってしまえばマンネリなのですが、各時代の風景が巧みに描写されて飽きさせません。

 また、マコトはクラシックや現代音楽を聴く趣味を持っています。ストリートの探偵物語に、あえてヒップホップやジャズなどではなく、クラシック音楽を持って来たところは、石田の非凡な才能を物語っているでしょう。

『娼年』

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 『娼年』は三部作から成る物語です。松坂桃李主演で映画化されており、そちらのほうでご存じの方もいらっしゃるでしょう。

 テーマは「性」と、そして「自由」。

 主人公は違法な売春夫(コールボーイ)に選ばれた青年で、深遠なセックスの世界が描かれます。

 そしてまた、この作品の一方のテーマはやはり「自由」なのです。

 この作品には、あたりまえのセックスの形に収まりきらない欲望を抱えた人々がたくさん登場します。そして、作中で、それは徹底的に肯定されるのです。

 どのような欲望を抱えていても許される。このリベラルでバランスが取れた姿勢こそが石田衣良の作品の大きな魅力です。

『北斗 ある殺人者の回心』

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 『池袋ウエストゲートパーク』と『娼年』は良いとして、その他の長編からあえて一作を選ぶとしたら、何が良いか。

 その問いに対しては、ぼくなら、『北斗』と答えます。

 これは、おそらく作家・石田衣良の最高の力作でしょう。きわめて重たいテーマを正面からねじ伏せた作品であり、かれのキャリアのなかでもマスターピースと呼ぶにふさわしい小説だと考えます。

 主人公は親から虐待されて育った若者であり、作中ではかれの犯罪、それも殺人が描かれます。

 ある意味では「罪と罰」について語った物語であるといえ、このあまりにも深刻な題材を描き抜いた一点だけでも称賛されて良いと考えます。

 もちろん、これは単にそれだけの小説ではありません。ダークでヘヴィ、それでいて感動的な読後感がたまりません。

その他の作品

 この他にも、石田衣良には無数の作品があります。

 その内訳が多様なジャンルに及んでいることは先に述べた通りですが、あえていうなら恋愛小説、ないし性愛小説が多いでしょう。

 以下に、数作を取り上げてかるく説明しておきます。

『波のうえの魔術師』

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 『波のうえの魔術師』は石田衣良初期の経済小説の傑作です。

 ある「魔術師」ともいうべき投資家の老人の弟子になった若者が、経済の世界で活躍するさまを描いた痛快な作品です。

 とにかくスマートでスムーズという、石田衣良作品の特徴がここまではっきりと出た作品は他にないかもしれません。

 主人公は『池袋ウエストゲートパーク』のマコトにもにているかもしれませんが、もう少し冷淡な印象を受けます。

『カンタ』

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 ある壮大な野心を抱えた若者と、かれの友人の「カンタ」の幼い頃からの友情と破滅の物語。

 これは、おそらく山本周五郎の『さぶ』の石田衣良による現代版のリファインだと見て良いでしょう。

 石田には恋愛や性愛を綴った作品が多いことは先に語った通りですが、ここではあくまで「友情」と「誠実さ」が焦点になります。

 冷ややかで心地よい文体で綴られるホットな情熱。それが、石田衣良の小説の端的な個性なのかもしれません。

『美丘』

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 石田衣良の恋愛小説の代表作です。オーソドックスな「難病もの」で、「泣ける小説」といえばそうなのですが、主人公が性的に奔放で、きわめて積極的に生きているところにかれの個性が出ている気がします。

 悲劇ではあるものの、必ずしも湿っぽくならない。そこらへんのさじ加減はやはりこの作家ならではでしょう。

まとめ

 石田衣良は、色々な文学賞を受賞していることからもわかる通り、「でたらめに」秀抜な作家です。

 そのひとつひとつの作品はそれぞれ大傑作まではとどかない印象ですが、全体として見ると驚くほど秀でた技術と才能を示している人物だと思います。

 その魅力は、まずは、何といっても秀逸な文体。そして、徹底したバランス感覚にあるといえるでしょう。

 これほど一方に偏らない視点を備えた作家はまれだと思います。どうぞ、この記事を参考に石田衣良のクールな世界に入っていってください。

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