月夜涙『回復術士のやり直し』レビュー。
月夜涙『回復術士のやり直し』という小説があります。
もともとはネット小説投稿サイト「小説家になろう」で人気を博した作品で、日間、週間、月間それぞれのランキングで首位を獲得したものの、そのあまりの過激さ、残虐さ、エログロ描写から「なろう」の規約に抵触していることが問題視され、作者自らの手によって「なろう」での発表を取り下げられたといういわく付きの作品です。
現在は角川スニーカー文庫から刊行されており、シリーズ累計部数は200万部を突破するとのことです。凄いですね。
ぼくはこの手のダークファンタジーが大好きなもので、さっそく手に入れて読んでみました。
すべてを奪われた男による暴虐のかぎりを尽くす暗黒の復讐譚とのことで、わくわくしながら読んでみたのですが――うーん、結論としては、微妙。
あくまで内容の暴力性を無責任に楽しむ作品であることはわかるのだけれど、まあ、そうはいっても小説としてのクオリティは最低に近いですね。何もかもが粗雑。
もちろん、いわゆる「なろう小説」に対し、一般的な小説としての出来不出来を問うことそのものが見当外れであることはわかっています。
わかっていますが、それにしても、ものには限度があるわけで、さすがにこれはちょっと論外なのではないかと。
物語から、文章から、あらゆる意味でクオリティが低い。
たしかに「なろう」には従来の小説の常識にあてはまらない奔放さによってこそ野放図な面白さを誇る作品もありますが、この作品はそれにもあてはまらないのではないか。正直、面白いとは思えない。
ただただ、エログロが続く、それだけのしろもの。
それでもAmazonレビューなどを見ていくと、この作品を擁護する人も一定数いるようです。
まあ、人の価値観はそれぞれだからそのことについてどうこういうつもりはないのだけれど、ちょっとこれはどうなのだろう。
願望充足とご都合主義を極限まで押し進めたという意味ではたしかに記念碑的な一作なのかもしれないけれど、まあ、よくあるレイプポルノ小説以上のものではないですよね。
少なくともぼくの観点から観るとめちゃくちゃな作品だと思います。いや、まあ、「なろう」には膨大な数のめちゃくちゃな作品があるなかで、兎にも角にも抜け出して来た作品ではあるわけで、そういう意味では作家の手腕は凡庸ではないのでしょう。
ふつうの小説として見たら最低の出来だと思うけれど、その最低の小説を何百万部も売っているのは大したものではある。皮肉ではなく、そう思います。
ただ、ぼくの価値観としては、いわゆるエログロ要素以外に褒めるところがないこともたしか。
ヒロインたちを次々とレイプしたり調教したりしていくところは、ミソジニー全開でちょっと面白かったけれど、それだけといえば、それだけ。
いや、求められているものはもともとそれだけなのだから、そこに特化するのは正しいのかもしれませんが、そのほかの要素がきわめて投げやりでたまりません。
作者の作品への愛情のなさが透けて見えるようで、まあ、あまり良い気はしませんね。
エログロでは悪いわけではない、それはたしかだが。
念のためにいっておくと、ぼくはエログロが見どころであることそのものは問題視していません。
先に述べたようにそういう作品そのものは好きだし、あまり子供っぽい内容よりは、暗く陰惨な物語のほうが好きなほうです。
どんなに邪悪で酷烈な話であっても、それ自体は問題と見做すつもりはまったくありません。サドとかバタイユとか、こんなものじゃないしな。
そもそも、以下の記事で触れられているように、80年代あたりには、そういう小説はたくさんあり、ふつうにベストセラーになったりしていたのです。

ぼくはその頃、子供だったけれど、書店に妙にエロティックな表紙が並んでいたことを生々しく憶えている。
だからべつだん、セックス&バイオレンスが満載の内容を非難するつもりはまったくないのだけれど、本書には明確で致命的な欠点がひとつある。
それは、面白くない、ということです。エンターテインメントとしてあまりにも面白くない。
もちろん、面白い、面白くないというのは個人の主観の域を出るものではないけれど、どうにもこの作家には作品を面白くしようとする情熱が欠落しているようにすら思える。
いや、面白くなくてもウケるし、売れるのだから、あえて面白くする意味がないといえばそれまでかもしれませんが……。
設定そのものはなかなか面白そうなのだから、どうせなら、そこに何かしら「魂」を込めて面白くしてもらいたいものだと思ってしまいます。
アニメ『回復術士のやり直し 完全《回復(ヒール)》ver』を観る方法。
しかし、この作品、そのサツバツとエロティックな内容にもかかわらず、なんと、テレビアニメ化しているのですね。
いったいどうやったらこんなものテレビで流せるんだと思うところだけれど、まあ、当然ながら規制が入って真っ黒な修正が加えられた映像が流されたのだとか。さもありなん。
まあ、最大の売りであるエログロをごまかして、気の抜けたサイダーみたいな作品に仕上げるよりはそちらのほうが良かったかもしれません。
ちなみにこのテレビ放映版は「通常版」と呼ばれ、その規制がいくらか解除されたバージョンは「やり直しver.」、完全に規制を取り去ったバージョンは「完全回復(ヒール)ver.」と呼ばれているようです。
まあ、そうなると、やはり「完全回復ver.」を見たくなるのが人情ですよね。
何が哀しくておっぱいやお尻を黒塗りされたレイプシーンを見なきゃいけないんだ。
で、ぼくも「完全回復ver.」をどこに配信で見れるのかちょっと調べて、いま、この記事を書いているのですが、さっさと結論をいってしまうと、「完全回復ver.」を見れる配信は存在しないようです。
いまのところ、このバージョンを観るためには、円盤で観るしかないのが現状です。




まあ、レンタルでも「完全回復ver.」には違いないので、そちらで観るという手はあるかもしれませんが、でも、いまどきちょっとこのビジネスはどうかと思わないでもない。
そういうわけなので、この作品を観たい方は円盤で観てみるのが良いと思います。まあ、ぼくはあえてオススメしませんが、好きな人は好きな内容ではあるのでしょう。
ダークファンタジーの魔境に踏み入るかのような陰惨無比の一作といって良いのかどうか。とにかく、観てみるのなら円盤で観ることを推奨します。
おしまい。
