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あの駄作は本当に駄作か?批評の終わりは「これは叩いて良い」の始まり。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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「批評」は死んだのか?

 『現代ビジネス』の記事の、「批評」に関する箇所が気になっている。

関連する話をしよう。いま、映画評論本が売れない。これは、そちら方面の出版関係者なら重々承知だろう。

(中略)

どんなに名の通った大御所評論家の評論集でも、気鋭の論客による渾身の著作でも、かつてほどは売上が見込めない。見込めないから、出版社で企画が通らない。だから刊行点数も少なくなる。一方で、人気作や出演俳優の「ファンブック」はよく売れる。ファンブック、すなわち、作品を絶賛する出版物。

評論というものが、もともとすごく売れるジャンルではないにしても、それに輪をかけて売れなくなってきている現状がある。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84368

 さすがにすぐバレるようなウソはつかないだろうから、これはほんとうのことで、評論、批評が売れなくなっているという事実はあるのだろう。

 ただ、ぼくなどから見ると、それがここで書かれているような理由からなのかどうかには疑う余地がある。ほんとうに「批判」を含んだ「辛口批評」の需要がなくなってきていて、単なる「絶賛」ばかりが評価されるという傾向があるといえるのだろうか。

 たしかにそうかもしれないとも思うのだが、ぼくは、ここは立ち止まって考えてもいいポイントだと思う。

「批評」より「絶賛」?

 いま、ウケる文章とは「論理」より「感情」、「批評」より「絶賛」であると指摘する人は、ネットで検索するとわりといくつも見つけることができる。たとえば、少し文脈は違うが、以下の記事ではこのように書かれている。

今は、アニメファン同士がタイムリーに作品について語り合い、「いいね」「シェア」しあう時代だ。辛口批評を独りでセコセコ作るより、みんなと一緒に「いいね」や「シェア」を共有したほうが、承認欲求や所属欲求を簡単・確実に充たせる。フォロワー数を増やしたい・広告収入につなげたいといった野心を持っている場合も、辛口批評でモノ申すより「いいね」や「シェア」を共有する人々におもねったほうが見込みがありそうだ。

そのうえ、辛口批評を繰り出せば多くの人に嫌われたり馬鹿にされたりするリスクも高い。たとえ、知識や文献にもとづいて辛口批評が行われていたとしても、「いいね」や「シェア」で共有されている作品に楯突くこと自体、リスキーであり、心理的障壁が大きく、報われにくい。

アニメがコミュニケーションの触媒として、つまりファン同士が承認欲求や所属欲求を充たしあうための触媒として用いられている21世紀のSNSやネットのなかで、「いいね」や「シェア」の環に背を向け、一人で「辛口批評」をセコセコと作り続けるのは、よほどタフじゃないと無理だろう。というよりそんな動機が簡単には生まれそうにない。

「いまのネットでアニメ辛口批評なんてできたもんじゃない」

書きたいことがあったら書けばいい。

 正直、ぼくにはよくわからないところもある話である。ぼくはブログを始めてから20年以上、書きたいことを書きたいように書いて来た。

 人が何をいっていようが関係ない。世間の流行も大衆の評価も無視して、自分が優れていると思ったものを称賛し、自分が退屈だと思ったものを酷評してきたつもりだ。

 むろん、完全無欠に自分のエゴだけを通してきたとまではいえないかもしれないが、基本的には「書きたいけれどとても書けない」などということは何もなかったと思っている。

 その結果、たしかに悪評が立つことも多かったし、じっさい自分が間違えていたことことを指摘されて落ち込んだことも少なくなかった。

 ただ、それはしかたないことだと思うしかない。まるで見当はずれのくだらない批判も少なくなかったとは思うが……。

 で、そういうぼくが「よほどタフ」なのかといえば、決してそうではない。批判されるとふつうに傷つく。罵倒されるとイヤな気分になる。

 ただ、それでも、自分の意見をはっきりいわないで「その場の空気」に流されることの気持ち悪さに比べれば何ということはない。そう思っている。それは「普通」のことではないのだろうか?

 ぼくはまあ、ことのほかこの種の「空気の圧力」が嫌いな人間なのかもしれない。たぶん子供の頃に読んだ田中芳樹作品の影響がいまも残っているのだろう。右を向けと偉そうにいわれたら損だと承知しても左を向く精神である。

「こんな世の中はポイズン」。

 それがはたして「反骨」といえるほど偉いことなのかどうかはわからないが、少なくともぼくは「みんな」におもねって文章を書いているつもりはない。

 自分がダメだと思ったことを批判し、自分が面白いと思ったことを称賛する。それはごくあたりまえのことでしかないのではないだろうか。

 ただ、そういう「批評的なもの」はいまどきはウケないといわれれば、それはそうなのかもしれない。

 いまのインターネットは、そんなぼくですらたしかに感じるほどに、強烈な「空気」の同調圧力が働いている。「みんな」と同じ意見を持たず、それを隠さない人間は袋叩きである。

 そもそもその「袋叩き」自体、「みんな」が叩いている同じものを叩かないとならないという使命感から来ている気すらする。はっきりいって、大変気持ち悪い状況だ。

 「みんな」が叩いているものはいっしょになって叩かないと自分自身が攻撃されるなんて、どこの学級の話だろう?

 結局、そういう状況に抗うためには、たとえたったひとりであっても「大勢の意見」を自分で検証し、「自分の頭で考える」より他ない。だれかが「これは叩いて良い」と決めたものをいっしょになって叩いて留飲を下げるのではなく。

 もし、その「自分の頭で考えた意見」を「批評」というのなら、たしかに「批評」が終わるときには「これは叩いて良い」という意見に盲従するだけの姿勢が始まることだろう。

 そこからある種のファシズムまでの距離はどのくらいだろうか?

「叩け、叩け、叩け!」

 Twitterなどのソーシャルメディアでは、いったん「これは駄作」という評価が定着すると、それをくつがえすことはむずかしい。

 そこには「どう攻撃しても笑い飛ばしても良いもの」というラベルが貼られてしまっていて、取り除くことができないのだ。

 たとえば映画では『デビルマン』や『ゲド戦記』や『進撃の巨人』や『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』などは典型的だ。これらの作品はだれからも「どうしようもないクソ映画」と呼ばれ、徹底して批判されている。

 そのこと自体が悪いとは思わない。自分が駄作だと思った作品を批判することは(口汚い表現の是非はともかく)それこそ自由である。

 しかし、ぼくが違和を感じざるを得ないのは、ほんとうにその評価は適正なのだろうか?ということだ。

 『デビルマン』と『ゲド戦記』は見ていないのでほんとうにどうしようもない映画だったのかもしれないが、『進撃の巨人』や『ドラゴンクエスト』は、個人的にそこまで悪い映画だとも思わない。

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 たしかにアクが強くとても万人受けする作風ではありえないことはたしかだが、「これはだれもが否定せざるを得ないほどの絶対的な駄作なのか?」というと、そんなこともないだろうと思ってしまう。

 人の意見はそれぞれなので、そう思う人の意見を否定するつもりはないが、あくまでぼく自身はそう思う。

 そして、もしいまの時代に「批判を口にしてはいけない」とする「空気」があるとするなら、いったいこのような現象は何なのだろう?

それを人は「同調圧力」と呼ぶ。

 つまりは「批判より絶賛のほうがウケる」とは一面的な真実でしかないということだろう。より正確には「「みんな」が褒めているものは褒め、みんなが叩いているものは叩く」ものがウケる、ということなのではないだろうか。

 それはたしかに「批評」ではなく、単なる「同調圧力のシンボル」である。Twitterのようなログが延々と残り、相対的に匿名性が弱くなる場では、そのような圧力が働きやすいことはわかる。理解できる。

 だが、それはやはりつまらないと思うのだ。インターネットでは「みんな」が同じ意見をシェアしなければならないわけではない。

 「「みんな」が褒めているから叩いてやろう」というのではあまりにひねくれているが、一色の意見しか認められないようではあまりに狭隘な世界であるように思える。

 まあ、ぼくはだれが何といっていようが自分の思ったことをそのままに書くつもりだけれど。

 はたしてほんとうに「批評」が受け入れられる時代は終わりつつあるのか、ただ単に大衆を魅了するような面白い「批評」がないだけではないか、そういうふうにも思うのだが、いかがだろう?

 もし、こんな面白い「批評」があるぞ!という情報を持っている人はぜひ教えてほしい。じっさい、ぼくも面白い批評なら読んでみたいと思う。

 単に決まりきった文体と何らかの知的権威で粉飾しただけの「批評っぽいだけのもの」なら、あえて読みたいとは思わないけれどね。

 「あなた」の意見を聞かせてください。

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