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『ナウシカ』や『十二国記』にも例がない「女の戦い」を見たい!

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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ラインハルトとヤン、アムロとシャア、ルルーシュとスザク……。

 アニメやマンガを見ていると、「宿命のライバル」どうしの対決の物語をよく目にします。

 互いに譲れない主張や思想を抱え、また同志や仲間たちの意思を背負って、戦いあう。そういう作品は枚挙にいとまがない。

 それこそラインハルトとヤン(『銀河英雄伝説』)とか、アムロとシャア(『機動戦士ガンダム』)とか、ルルーシュとスザク(『コードギアス』)とか、そういう、個人として、ミクロのレベルでは認め合っていながら、マクロの大義を共有できない故に対立し、対決するある種のライバル関係は、ほんとうに無数にあるでしょう。物語のひとつの王道といっても良いくらい。

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 しかし、そういう「思想戦」を繰りひろげるキャラクターは、ぼくが見たところ、ほとんどが男性どうしか男性対女性(ないし女性対男性)なのですね。

 だから、これは昔から思っているのだけれど、

①「女性のリーダーどうしが」
➁「個人のレベルを超えた大義と集団を背負って」
③「戦いあう」

 物語って、男性向けであれ女性向けであれ、ほとんど見たことないな気がします。もっとあっても良さそうなものだけれど、あまり見かけない。

 まあ、このように書くとすぐに「何をいっているんだ、有名なアレとアレとアレがあるじゃないか!」という抗議が飛んで来るかもしれませんが、少なくともぼくはすぐには思いつきません。あるだろうとは思うのですが。

いくつかの作例。

 この話をLINEでしてみたところ、いくつかの作例が出て来ました。

 『虚構推理』の最新章とか『Fate/Grand Order』の第二部第六章あたりがかなり近いところにあるんじゃないか、という話でした。

 また、『美少女戦士セーラームーン』や『プリキュア』シリーズのいくつかは近い描写がある、という話もありました。あるいは『女城主直虎』とか。

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 しかし、かなり大勢のディープなオタクどうしで話し合っているにもかかわらず、ダイレクトに「これだ!」といえるタイトルは挙がって来ませんでした。

 スポーツとか競技のレベルならいくつかあることはあるんですよね。

 古くは『ガラスの仮面』や『エースをねらえ!』の誇り高い女どうしの戦いは素晴らしいですし、最近だと『少女ファイト』とか、ちょっと路線は違うけれど『ガールズ&パンツァー』なども女性リーダーどうしの戦いを描いています。

 だから、まったくないというわけではないのだけれど、それでも、これぞというタイトルはちょっと出てこないんですね。海外にもあまり見あたらないんじゃないか。

 あえていうなら『ゲーム・オブ・スローンズ』(『氷と炎の歌』)はかなり良いところまでいっている気がするのだけれど、それでも女性リーダーどうしがマクロな大義を掲げて「思想戦」を戦いあうくだりはなかった気がする(ただ、ぼくがすぐに思い出せないだけであるかもしれません。もしあったらご指摘ください)。

ナウシカとクシャナ、エボシ御前とサン。

 もちろん、いまや女性リーダーそのものを描いた作品は数あります。

 『十二国記』では各国の王たちの半分は女性ですし、『風の谷のナウシカ』のナウシカやクシャナはひじょうに魅力的な女性リーダーキャラクターです。

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 もし、ナウシカとクシャナが一国や一軍を背負ってもう少しバチバチと戦い合っていたら、まさにイメージそのものだったかもしれません。

 そういう意味では『もののけ姫』のエボシ御前とサンもかなり近いところまでいっている。

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 もしも、サンにエボシ御前に匹敵するほど複雑に構築された思想や理想があったなら、やはり「まさに!」といえたでしょう。

 ですが、やはりじっさいにはサンにはそのような「思想」がないように思えます。わりとミクロで個人的な動機で動いているようにしか見えない。

 ああ、いま思い浮かべたけれど、荻原規子『西の善き魔女』はかなり近い印象がありますね。

 フィリエルとアデイルとレアンドラは、それぞれにそれぞれの理想をかかげて対立する。

 かなりメタ的、フェミニズム的に従来の物語を「再構築」した物語なので、王道とはいえないだろうけれど、あれは良い作品でした。

 それをもう少し過激に踏み込んだ作品が見たい。

 賢く誇り高い女性たちが一国や民族や人類を背負って戦い合う! そういう物語を見てみたいと思うのはぼくだけではないはず。

 だから、もう少しそういう作品があっても良いと思うんだけれど、現実にはほんとうに少ない気がします。

『ファイブスター物語』のばあい、『グイン・サーガ』の例。

 思いつかないながらいろいろ思い浮かべてはみているのですが、直近の例でいうと、『ファイブスター物語』における女神ラキシスと魔女帝ゴリリダルリハの超次元対決はかなり近いところにある気がします。

 ふたりとも「女性」とひと言でいって良いのかどうか迷うような超常の存在ではありますが、まあそれでも一応は女性です。

 そして、ふたりともひとつの世界というか宇宙を背負っています。これはかなり良い具合にあてはまっているように思えます。

 これがもう少しストーリーの中核に関わるところにあったら文句なしなのですが、わりとすぐに和解して仲良くなっちゃうのですよね。もうひとつ物足りない。

 そもそもこの話がどこから来ているかというと、大元の大元は栗本薫『グイン・サーガ』における女性陣の扱いからなのです。

 『グイン・サーガ』には、リンダ、アムネリス、オクタヴィアといった女性キャラクターが出て来て、それぞれに活躍するのですが、その活躍具合が、ぼくから見ると、いかにも物足りない。

 パロの王女リンダとモンゴールの公女アムネリスは、ふたりとも出て来たその瞬間は大変かっこいい。

 ですが、ふたりそろってあっというまに「堕落」してしまいます。わりと恋愛ごとしか目に入らない平凡な女性になってしまうのですね。

 これが、ぼくからするとあまりにも残念なのです。できれば、不倶戴天の運命のふたり、パロとモンゴールを背負った壮絶な戦いを見せてほしかった。

女性対男性の例はあるが。

 まあ、『グイン・サーガ』はあまりにも古い例かもしれませんが、現代においてなお、「女性リーダーどうしの誇り高い戦い」を描いた作品はあまり思いあたりません。

 ありそうなものなのですけれどね。あるとしてもほんとうに少ないことはたしかだと思います。

 マクロ的な高い視点を持ち、高潔な理想を抱き、それを実現するために戦う、そういうかっこいい女性のリーダー、ないしヒーローはいるでしょう。

 それこそナウシカとか。あるいは『BASARA』の更紗でもいい。

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 でも、そういう女性リーダー/ヒーローたちのまえに立ちふさがるのは、ほとんどのばあい、男性キャラクターであるように思えます。

 『ファイブスター物語』でもマグダルに敵対するのは男性のボスヤスフォートですよね。

 女性が主人公格で、その女性のまえに立ちふさがる「敵」もまた女性、ということじたいがめったにないのではないか。

 また、そのパターンそのものはなくはないとしても、そのふたりともがハイレベルな思想なり理想を掲げていて、ある程度ロジカルにそれを展開することができるという例となると、ちょっとぼくは思いつきません。

 いま、日本には国内海外、プロとシロウトの作品を合わせて膨大な数の物語があるはずなのに、このパターンがすぐに思いつかないのはどういうことなのでしょう。

 ぼくが無知なだけで類例があるのか。それとも、ほんとうに数少ないのか……。どちらなのでしょうか。

誇り高く壮大な「女の戦い」を見てみたい!

 すぐに「これだ!」という例が思いあたらないのは、あるいは需要そのものがないのかもしれません。

 ただ、ぼくは見てみたいと思うのですよね。

 「女の戦い」というと、どうしても陰湿な、多くのばあい、男性の寵愛を奪い合うような「戦い」が想像されてしまいます。

 そういうイメージを塗り替えるような、気高くも壮絶な「女の戦い」が描かれても良いのではないか、ぼくはそう思うのです。

 もっとも、じっさいにそれが描出されないということは、まだそういう作品が、一部の先駆的な例外を除けば、出て来る背景がないということなのでしょう。

 もし、「アレを忘れているんじゃね?」というような作品がありましたら、サイドバーのメールフォームから教えてほしいと思いますが、まあ、大方は「まだその時代ではない」ということなのではないか。

 いまの日本の現状を見ると、女性リーダーそのものはぽつぽつと出て来るようになっているけれど、まだそれほど多くはない、という感じです。

 そこで「女性リーダーどうしの思想戦」を描くことはまだむずかしいのかもしれない。そういうふうにも思えますね。

 もし、この文章を読んだ人のなかにクリエイターの方がいらっしゃいましたら、ぜひ書いてほしいと思いますが。ひょっとしたらまったく新しい鉱脈が拓けるかもしれませんよ。

 まだだれに手もついていない黄金の鉱脈が。

つばめ<br>(看板娘)
つばめ
(看板娘)

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