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【アニメ化決定】『その着せ替え人形は恋をする』をネタバレ解説!

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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記事の解説
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『その着せ替え人形は恋をする』はいままでにない、まったく新しいラブコメです。現代の文脈の最先端にあります。その斬新さはどこから来ているのか、詳細に解説しました。

『その着せ替え人形は恋をする』最新刊刊行。

 どんどんどん、ぱふぱふぱふー。本日(2021年10月25日)、『その着せ替え人形は恋をする』の最新巻である第8巻が発売されました!

【新品】その着せ替え人形は恋をする 1 スクウェア・エニックス 福田晋一

 『その着せ替え人形は恋をする』は現在、雑誌『ヤングガンガン』で好評連載中の恋愛マンガ。

 これがもう、めちゃくちゃに面白いので、ぜひ読んでいただきたいのです。

 そこで、この記事はいままでのストーリーや周辺事情の解説を行うことにしました。

 もし既刊を未読の方がいらっしゃいましたら、ぜひあなたも『その着せ替え人形は恋をする』沼にハマっていってください。ウェーイ。

 ちなみに「着せ替え人形」は「ビスク・ドール」と読みます。

 19世紀のヨーロッパで流行した少女型の人形のことですね。

 このタイトルからは人形のようなおとなしくも可憐な女の子が出て来る作品が想像されるかもしれませんが、じっさいにはまったく違います!

 そこら辺のことも含めてくわしく解説していきたいと思います。

 まあ、おまえの解説なんかよりとにかく早く読んでみたい、その上で判断する、という人のためには、公式サイトで第1話を試読することができるので、そちらで読んでみてください。面白いよ。

その着せ替え人形は恋をする ヤングガンガン -SQUARE ENIX-
五条新菜(ごじょうわかな)は雛人形の顔を作る 「頭師」を目指して修業中の男子高校生。 趣味や好きなものが同年代と違うせいでクラスに 馴染めない生活を送っていたある日、 いつも友人の輪の中心にいる喜多川海夢(きたがわまりん) と思いもよらない接点が出来て……? YGの新ヒロインはギャルで○○!? ドキド...

 あ、解説動画もあります。

ヤングガンガン「その着せ替え人形は恋をする」PV

 それでは、まず、この『その着せ替え人形は恋をする』とはどのような作品なのか? その点から話していきましょう。

このマンガのあらすじと設定。

 このマンガは、ひな人形の頭を作る「頭師」を目ざす少年・五条新菜と、クラスでも注目を集め、モデルとして働いている美少女・喜多川海夢(まりん)のふたりを中心とした軽快なラブコメディです。

 自分の趣味や夢をまわりに打ち明けることも、クラスのなかで友達を作ることもできずにどこか浮いている新菜と、花やかな容姿と快活な性格のため、いつもクラスの中心にいる海夢。

 一見すると何も接点がないふたりを繋いだのは、海夢の「コスプレ」という趣味。

 じつは海夢はギャルでありながら、一方である「エロゲ」のヒロインをコスプレしようともくろむ一風変わった女の子だったのです。

 ちょっとした偶然から新菜がミシンを扱えることを知った海夢は、かれにコスプレ衣装の制作を頼みます。

 それが、ふたりを深い深い「沼」へとひきずり込んでいくキッカケになるとも知らずに。

 奥手で内気な新菜と、あかるく無鉄砲な海夢。対照的な個性を持つふたりはやがて惹かれあっていくのですが……というのが大まかなお話。

 まあ、この手のラブコメにはめずらしく、新菜と海夢のふたりの間にはこれといった「障害」がないので、あっさり結ばれても良さそうなところなのですが、新菜も海夢も奥手なため、いまのところ本編はそのような展開になっていません。

 おそらくこの先のどこかの時点でそういうこともあるかもしれませんが、物語はどこまでもじりじりと進んでいきます。

 うん。はよつきあえや。

斬新で独創的なストーリー。

 その後、当然というか物語にはいろいろな美少女たちが出て来ることになるのですが、特別、「ハーレム展開」というわけでもなく、その意味で女性でも読みやすい作品だと思われます。

 いかにも青年誌らしいお色気描写も含まれてはいるものの、オヤジ的ないやらしさは感じられないので、その点はご心配なく。

 作者は男性名ですが、おそらく女性だと思われます。その意味で、少女マンガなどに近い感覚で読めるかもしれません。主人公の新菜もめっちゃいい男ですしね! いっそ斬新なくらい。

 ただ、クラスのなかでも中心にいるような佳麗な美少女がじつはディープな「オタク趣味」のもち主だった、という設定そのものは過去にも例があるものです。

 その点だけならさほど独創的ではないかもしれない。

 すぐに思い浮かぶのは、伏見つかさによるライトノベルのヒット作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でしょう。

 一方が「妹もの」であり、他方が「コスプレもの」であるという違いはあるものの、『俺妹』と『その着せ替え人形は恋をする』は共通点が多く、逆に時代の違いが際立っていて興味深いところです。

 『俺妹』ももちろん名作なのですが、誤解を恐れずにいうなら、『その着せ替え人形は恋をする』を読んでからだとやはり背景となる時代の古さを感じる。

 逆にいうなら、それくらい、『その着せ替え人形は恋をする』は時代の最先端を行く作品なのだと思います。素晴らしいですね。

いままでの学園ラブコメとはまったく違う!

 もちろん、地味であか抜けない男子が人気者の美少女とふとしたきっかけで巡り会う、という設定そのものは「ラブコメの王道」といいたいくらいありふれているものです。

 だから、その点だけならとくべつ斬新とはいえないでしょう。

 この作品の新しさは、その「地味な男子」である「ごじょーくん」こと新菜が、とくべつ「スクールカーストの底辺」といった状況にいないことです。

 いや、新菜自身は自分を「クラスに溶け込めていない」と認識しているのですが、じっさいにはかれのまわりの生徒たちはそこまで新菜を特別視していない。

 新菜がみずからひとりで孤立することを選んでしまっているといってしまいたいくらい、このクラスは「差別」や「蔑視」がない環境にあるのです。

 新菜のまわりの男子も女子もいわゆる「いい奴」ばかりで、「いじめ」はもちろん、「スクールカースト」といった考えかたも見あたりません。

 新菜のまわりには、いわゆる「リア充」的なキャラクターたちがそろっているにもかかわらず、海夢のオタク的な趣味をバカにする人間もいない。

 この作品では、最初から延々と「ひとの好きなものをバカにする奴がいたら、そいつのほうがおかしい」という価値観が貫かれています。

 この点が、決定的に新しい。あえていうなら、いままでの学園ものラブコメとはまったく逆転しているとすらいって良いでしょう。

過去の作品と比べてみると。

 『俺妹』では、オタク趣味を持つヒロインはその趣味をひたすらに隠し通そうとしなければなりませんでした。

 あるいは、『僕は友達が少ない』や『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』では、主人公は強烈に学校内の「カースト」の存在を意識し、そこから外れている自分の存在を意識しつづけていました。

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 しかし、『その着せ替え人形は恋をする』は、海夢は違います。

 彼女は自分の「好き」を積極的かつ徹底的に肯定し、その「好き」を否定するものは容赦なく切り捨てていくのです。

 その姿勢は第1話の時点ですでに際立っていますし、物語が進展していくにつれさらに強烈に打ち出されていくのです。

 そして、海夢や新菜を取り囲む人間たちもまた、男性であるか女性であるかを問わず、「他人の「好き」を頭から否定したりバカにしてかかるなんておかしい、まちがっている」という価値観をごくごくナチュラルに備えています。

 このリベラルさは、少女漫画家の成田美奈子さんが『CIPHER』や『ALEXANDLITE』で描いたアメリカの名門校のありようを彷彿とさせるほどです。

 あるいは、現実離れしたファンタジーと受け止めるべきかもしれませんが、すくなくともこのようなファンタジーが成立するようになったことは画期的なことだといって良いでしょう。ともかく、10年前では考えられなかったことなのですから。

『ヲタ恋』ですらもう古い。

 先日、オタクをネタにしたマンガでは最も有名な作品ともいえる『ヲタクに恋は難しい』が完結しました。

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 この作品は現代のオタクのありさまをかなり斬新なタッチで描出して話題になったものですが、これですら主人公はまわりにオタク趣味を隠しています。

 そして、最終巻でようやくカミングアウトするのですが、そのためには非常に勇気を振り絞らなければならないという描写でした。

 これは『ヲタクに恋は難しい』が始まった6年前にはあたりまえのことだったでしょう。

 しかし、そのわずかなあいだに情勢は変わり、いまでは少し古さを感じさせると思います。

 これは驚くべきことだと思いますが、いまではもう「オタク趣味は隠さなければならない」ということがあたりまえのコンセンサスではなくなってしまったのです。

 「ライトオタク」という言葉が使われるようになったのはいまから10年以上まえのことだと思いますが、いまではその概念すら古くなり、いずれは「オタク」という概念すら消えてなくなってしまうかもしれません。

 『その着せ替え人形は恋をする』はまさにそのような時代を象徴し、あるいは先取りする作品といって良いでしょう。

 このマンガでは、主人公の新奈は「男でありながら人形を愛している」ことを恥ずかしく思っていますが、これはかれのかってな思い込みであるに過ぎず、まわりは何とも思っていないということがくり返し描かれます。

 きわめて自由で成熟した価値観だと思います。

マジョリティとマイノリティの逆転。

 もっとも、作中の環境が完全にリベラルで偏見や差別がないそれかというと、やはりそうではない。

 この作品のなかにも、冒頭で新菜に対し「気持ち悪い!」といい放ったなぞの女の子を初め、さまざまなバイアスを抱えたキャラクターは出て来ます。

 ですが、重要なのは、もはやそのような人物は圧倒的マジョリティを形成してはおらず、むしろマイノリティ(少数の例外)ですらある、ということです。

 『俺妹』の時代にはオタク趣味のもち主は、たとえ絶世の美少女ではあっても、マイノリティとして懸命に自分のアイデンティティを守らなければならなかったのですが、もはやそういう時代ではないということでしょう。

 ひとりのオタクとして、感慨深いことです。ほんとうに時代は変わったのだなあ。いやはや。

 そういうわけで、『俺妹』はもちろん、『ヲタクに恋は難しい』をも超えて、オタク趣味マンガの最先端(カッティング・エッジ)を行く傑作なので、ぜひぜひ、読んでみてください。

 こちらの記事では、なるべく安く読む方法が解説されています。

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 また、この作品は2022年のアニメ化が決定されています。PVが公開されているので、チェックしてみてください。なかなか良い出来であるように見えますね?

TVアニメ「その着せ替え人形は恋をする」第1弾PV

 本編の第6巻あたりからさらに物語は盛り上がるのですが、アニメはそこまでは行かないかも。ぜひ第2期を作ってほしいです。

 そういうわけで、いま最もハマっている作品でした。おしまい。

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