竹本泉マンガランキング。
昔から竹本泉さんのマンガが好きです。ぼくはこの人、なにげに天才なんじゃないかと思うんですよね。
その作品はじつに暖かく、ほのぼのしていて、それでいてとほうもない奇想に富んでいる。ちょっと想像を絶する作品がいくつもあります。
そしてまた、いわゆる「メジャー」の路線を歩いて来た作家さんではなく、アニメ化された作品もありませんが、それでいて一定以上のマンガ好きならだれもが知っている存在なのではないかと思います。
この記事では、そんな数ある竹本作品のなかから、個人的な「ベスト10」を選び出してみました。
当然ながら竹本ファンの方からは百家争鳴というか異論反論は山のように出て来るものと思いますが、あくまでぼくのシュミのランキングということでよろしくお願いします。じゃ、行くぞ!
第10位『ルプ☆さらだ』
もう、このタイトルの時点で「竹本泉だなあ」というか、竹本泉以外の何ものでもないアトモスフィアがただよっているわけですが、『ルプ☆さらだ』です。
人の話を何でも信じ込んでしまう幼い女の子に、即興でお話を考えることが得意なおじさんが色々と不思議な法螺話を吹き込んでしまうという、これ自体は竹本作品のなかでは比較的まとも(?)とも受け取れる筋書きなのですが、その法螺話の内容が例によってとんでもない。
具体的なことは読んで確認していただきたいところですが、この人のぶっ飛んだ発想はいったいどこから来ているのだろう?とほんとうに不思議になります。
しかもそれをあたりまえのように何十年も続けているとゆう、この凄さ。ふつう、アイディアに頼るタイプの作家さんはどこかで発想が枯渇するものだと思うのだけれど、竹本さんは悠々と変な話を描きつづけているように見える。ものすごい才能だと思うんですよね。
ちなみにこの作品、パズルゲームになっていて、ぼくはそっちもプレイしています。
第9位『さよりなパラレル』
あるとき、からだにカミナリが落ちたことから、時空を転移する能力を身につけてしまった女の子さよりの冒険を描くストーリーです。なぜカミナリが落ちると時空を移動することになるのか、それは気にしないでください。そういうものなのです。
さよりが移動してまわるのはいわゆるパラレルワールドの日本なのですが、いったいどこでどう歴史がねじ曲がったのか、まったくの異世界としか思えないところばかり。
彼女は移動した世界で魔法使い扱いされたり、タコとゲームをしたりします。いや、ほんとにそういう話なんだよ……。
これでもまだ竹本作品のなかでは一般的にわかりやすいほうだと思います。タイトルも「主人公の名前+設定」とわりにわかりやすいし。
最後にさよりがたどりつく並行世界が、ある種の寄生生物によって人間たちの倫理がねじ曲げられた世界なのですが、そこで最後に下される判断が凄かった。なんかふつうじゃない感覚がありますね。センス・オブ・ワンダー。
第8位『よみきりもの』
たくさんの読み切りが収録された短編集です。べつだん連作短編集というわけでもなく、それぞれの話はひとつひとつ完結しています。
竹本さんはかなりいろいろな読み切り短編を描いて来ている方ですが、これはその集大成といっても良いのではないでしょうか。
この位置にランキングしておいてなんですが、ぼくはこのシリーズ、まだ全部を読み終わっていません。風邪で寝込んだときとか、うつ病で倒れたときとかのために取っておいてあるのです。
いや、からだが疲れ切ってしまい、あるいは心が病んでしまって物語を追いかける気力がなくなったときも、不思議と竹本さんのマンガだけは読めるんですよね。
それはただかれの世界に「悪意」や「暴力」が見あたらないからだけではなく、何ともいえない暖かな空気がただよっているからだと思います。
竹本さんの世界はその意味でハートウォーミングといっても良いとは思うけれど、そこにはいつもSF的な「不思議のひと触れ」があって、ただ「癒やされる」というのとは違っているんですよね。ほんとうに不思議な作家さんです。
第7位『てけてけマイハート』
なにげなく長いシリーズです。全10巻。竹本さんの作品のなかでは、『ねこめーわく』+『ねこめ(ーわく)』を除くと、いちばん長いのではないでしょうか。
とはいっても、この作品はファンタジーでもSFでもなく、見た目が中学生くらいにしか見えない女性を主人公にした「日常もの」です。
そういう意味では、先ほど触れた「不思議のひと触れ」(ちなみにこれは、シオドア・スタージョンの作品に出てくる概念です)はないはずなのだけれど、読みごたえは他の竹本作品と変わりありません。
いやあ、この人の作風って、べつだん、SF/ファンタジー要素に依存しているものではないのですね。ただあたりまえの日常を描いていてもなんとなくセンス・オブ・ワンダーがあったりするあたりが、非常に素晴らしいと思います。天才すぐる。
ちなみに長いシリーズなのでどんどん時間が経って、主人公は途中で結婚し、最後には出産までします。そこら辺が読んでいて面白いところですね。
第6位『がーでん姉妹』
「がーでん姉妹」と書いて、「がーでんシスターズ」と読みます。まったく区別がつかない三つ子の姉と、美少女の妹に挟まれた女の子の話。さらに彼女には離婚した父のほうの兄弟もいたりして、もう何だかよくわからないことになっています。うーん、うじゃうじゃ。
このシリーズも、『てけてけマイハート』と同じく作中でどんどん時間が経っていく設定になっていて、最初出て来たときは小学生だった妹は最後には大学まで進学し、漫画家になっていたりします。
こういうところは現実的というか、ありえる話なんですよね。何ともほんわかしたファンタジーとしかいいようがない竹本ワールドなのですが、べつだん、現実から目を逸らしているわけでもない。
現実世界の要素はひと通り存在しているようでもあるのだけれど、全部、独自のフィルターを通して見ている感じがするというか、まあ、ちょっと形容しがたい作風です。うじゃうじゃ。
第5位『さくらの境』
『さくらの境』。百合です。百合……だよ、な? たぶん百合。べつだん、女の子同士で恋愛するわけではないのですが、キスくらいはします。
まあ、仲の良い女の子同士だったらキスくらいならしてもおかしくないか? そうでもないか? ポリティカル・コレクト的に判断を下すことはやめておきますが、つまりはまあ、そういう話。全四巻できれいにまとまっています。
竹本さんがこのマンガを描こうと思ったきっかけというのが、「百合とかはやってるし」というのが凄い。この業界で何十年も描きつづけているベテラン漫画家のプライドをまったく感じさせませんね。
でも、竹本さんの世界と百合は非常に相性が良い気がします。なんといっても、女の子たちが可愛いからね。いわゆる「萌え」ともちょっと違う、でも一脈通じる不思議な可愛さ。やっぱり少女漫画から来ているものなのかな? そんな気がしますね。
第4位『しましま曜日』
『しましま曜日』。「服に着られてしまう女の子」という「ちょっと何いっているのかわからないですね」な設定を使ったシリーズです。つまり、思い込みが激しすぎて、着ている服によって性格が別人に変わってしまう女の子の話なんですね。
なんだそれはといわれても困る。そういう女の子って、いるよね? いないか。いないですね。でも、この世界にはいるんだよ。
全二冊できわめてコンパクトにまとまっている作品ですが、ぼくはこの作品、大好きです。ひょっとしたら、好き嫌いだけでいうのなら竹本作品すべてのなかでもいちばん好きかもしれない。
というのも、このマンガ、王道のラブコメなんですよね。そこが良いですね。竹本さんはもちろんいくつもいくつも青春ラブコメを描いていますが、そのなかでもぼくはこれをベストに挙げたい。
たぶん、竹本さんの作品のなかで最初に読んだのがこれだった気もするので、そういう意味でもスペシャルな作品なのかもしれません。
第3位『アップルパラダイス』
そういうわけで、第3位、『アップルパラダイス』です。竹本さんの他のシリーズとも微妙につながっているようでもある学園を舞台にしたシリーズですが、これ、とんでもないです。
数ある竹本作品のなかでも、「奇想」という意味ではこれがいちばん凄いと思う。もう、「何を考えていたらこんなことを思いつくんだ」というアイディアの雨あられ。
いや、ほんとうに「変な話」としかいいようがないような突拍子もない物語が展開し、べつに解決することもなく、「変だぜ」などといって終わります。
いま入手は困難かもしれませんが、ぜひ読んでいただきたいシリーズです。地球に隕石が落ちてくる話とか、おかしいから、ほんとに。ほんとのほんとに。
あのインパクトはもうぼくは一生忘れないと思う。隕石で地球が滅亡寸前までいくところはまあ普通なんだけれど、その解決策が奇妙すぎる。素晴らしいアイディア。びっくりしました。オススメ。
第2位『あおいちゃんパニック!』
出た! 『あおいちゃんパニック』! 異星人のスーパーガールあおいちゃんの活躍(?)を描く堂々の少女漫画で、初期竹本泉を代表する作品です。
たった3冊で完結しているものの、この作品の印象は相当に強烈であるらしく、いまだに竹本泉といえばあおいちゃんの作家だと思っている人も少なくないのではないでしょうか。
竹本さんの作品らしく、不思議な現象がいろいろと巻き起こります。この人、絵柄はさすがにいくらか変わりつづけているけれど、作風そのものはまったく変わらないですね。
いまから何十年も昔の作品ではあるのだけれど、基本的にはやっていることは同じ。それで通用してしまうのだから凄いよね。時代に何十年、先駆けているのだって話。
この作品の魅力はヒロインであるあおいちゃんの可愛らしさに尽きます。いろいろな意味で竹本ワールドを代表する女の子でしょう。
第1位『ねこめーわく』
じゃじゃん! そういうわけで記念すべき第一位は、やはりというか『ねこめーわく』です。
途中で何度か雑誌を移動し、タイトルも少しだけ変えながら続いているシリーズなのですが、やはり竹本泉の代表作といえばこれでしょう。
人間のように洋服を着て二足歩行する猫たちというアイディアそのものはそこまで独創的なものではないかもしれませんが、その猫たちが人間の真似をしていろいろな事件を起こし、それをたしなめたり叱ったりするのが並行世界の地球から魔法で召喚された女の子となると、これはもう竹本ワールド以外の何ものでもありません。よく考えるよね、こんな設定。
現在、ふたつのシリーズを通して15冊が出て、一応は完結ということになっていますが、たぶんまだ続きが出るでしょう。というか、出てほしい。
まあ、最後まで世界の秘密は解けないかもしれないけれど、それはそれでいい。いつまでもこのキュートな世界を描きつづけてほしいものです。
あとがき
というわけで、全10作を並べ挙げてみましたが、いかがでしょうか。
竹本さんのマンガはひょっとしたらわからない人にはまったくわからない世界であるのかもしれませんが、「わかる」人にとってはこんなに面白いものはないという作風でもあります。
ラブコメとファンタジーを混ぜ合わせた奇想の作家というと、そこまで変な作風にも思えないのだけれど、じっさいには唯一無二、ワン&オンリー、ちょっと他に似ている作家を思いつかないくらい独創性の高い漫画家さんです。
もし、まだ竹本作品を読んだことがないという方がいたら(いやまあ、そんな人はここまで読みつづけていないとは思いますが)、ぜひ、どの作品からでもいいので入ってみてください。
ほんわか、ほのぼの、しかしとんでもないアイディアに満ちあふれた独創の作品たちがあなたを迎えてくれるでしょう。