傑作? 凡作? 『タコピーの原罪』。
Twitterを初めとするソーシャルメディアでいま話題沸騰のタイザン5『タコピーの原罪』、皆さんはすでにお読みでしょうか。
この記事は、「もう読んでしまった」方に向けての記事です。
まあ、でも、「まだ読んでいない」方も読んでもかまわないかもしれません。ネタバレはありますが、何しろ連載中の作品なので、それも途中までのことですから。
もっとも、特にオススメというわけでもありません。じっさい、ぼくはあまりこのマンガの良い読者ではないと思うんですよね。
評判になっていることは知っているのだけれど、そこまで面白いと思って読んでいない。いまひとつこのマンガのどこがウケているのかピンと来ていないところがある。
でもまあ、そういう読者もいても良いと思うので、以下、ぼくなりの感想を書いていきます。
いくらか否定的な見解になってしまうと思うので、それでもかまわないという方だけ読んでいただければ、と。
ちなみにネタバレありです。
また、ぼくは同じ作家の以前の作品にあたる「ヒーローコンプレックス」と「キスしたい男」も読んでみたのですが、そちらはなかなか面白かったので、ぼくがたまたままだこの作品の面白さを感受できていないだけなのかもしれません。
というか、たぶんそうなのだろうと思うので、そういう、いささか感受性の貧しい男の戯れ言と考えてください。よろしくお願いします。
ぼくの感性のアンテナが衰えているのだろうか?
さて、『タコピーの原罪』なのですが、この作品、ぼくは一応、リアルタイムで連載を追いかけているものの、そこまで面白いと感じていないのですよね。
でも、先述したようにネットでは大きな話題になっている。つまりぼく個人の感覚と読者一般の感想が大きくずれているようなので、何だか気になります。
ひょっとしたら空前の傑作をぼくの年老いたセンスが受け止めそこねているかもしれないわけで、罪悪感すら感じないこともありません。
もちろん、まだ連載中の作品なので、これから尻上がりに面白くなってくる可能性はあるとも思うのだけれど、すでに面白くなっていると感じている人が多数いることも事実です。
いったい、ぼくがうまく感じ取れない「『タコピーの原罪』の面白さ」とは何なのでしょうか。
それはひとつには「世界の残酷さ」の表現であるのかもしれません。
この作品にはたしかに過酷とも残虐ともいえるような描写が頻出します。
第一話の時点で、ヒロインであるしずかちゃんは同級生から残酷ないじめを受けつづけ、自殺してしまいます。
「ジャンプ+」という表現媒体を考えると、たしかに過激な描写で、おそらく、そういったところがウケているのだろうな、とはある程度はぼくにも想像ができる。
で、ぼくもわりとその系統の作品は好きなほうで、『最終兵器彼女』とか『Gunslinger girl』とか『ぼくらの』あたりはわくわくしながら読んだのですが、『タコピー』には特に何も感じないんですよね。なぜかというと、うーん、なぜだろう。
それ自体は「この世界のありふれた現実」でしかない。
ひとつには、その「世界の残酷さ」の描写を除けば、特に面白い話じゃないのではないかと感じているからでしょうか。
特別にサスペンスが高まるわけではないし、ラブコメとか百合になったりするわけでもないので、ぼくとしては面白さを感じ取りづらい。
あえていうと、ぼくは「世界の残酷さ」そのものは物語のテーマにはならないと思っています。
単に「この世界はこんなにも残酷なんだ」ということをストレートに見せられても、「いや、それは知っているよ」と思うだけですから。
そもそも子供が同級生にいじめられて自殺してしまいましたというニュースは、時々、ワイドショーとかでやっているものじゃないですか。
それ自体は特別に特に着目するべきでもないありふれたことで、「この世界の現実」でしかないと思うんですよね。
その「現実」を目の前に突きつけられても、それそのものはとくべつ目新しくないという気持ちがぼくにはあります。
ぼくたちの生きている世界って、そんなに平和じゃないですよね。この世は殺すか殺されるかであるという一面は現実にもあるし、ネットにも殺してやりたい、殺してもかまわない輩は何人もいるわけで、殺したの殺されたの、それ自体はごくふつうのことだと思うんですよ。
皆さんも、殺して埋めても全然かまわないと思う人間のひとりやふたりは思い当たることでしょう。
そういう意味では、人をいじめ殺してやりたいとか、いじめられて辛いので自殺したいとか、そういうことに特別性はない。したがって、普遍的なテーマではあっても、衝撃性はない。

「あたりまえの現実」が衝撃をともなうとき。
もっとも、そういった「あたりまえの現実」がある種のショックとインパクトを持って迫って来ることはたしかにあります。
それは「どこか遠くにいる見知らぬ子」ではなく、「よく知っている大好きな子」が殺された場合などです。
そういうときはたしかに衝撃的ですし、怒りに震えますし、涙したりすることすらあるかもしれません。
だから、『タコピー』においても、もしヒロインに非常な好感を抱けていたらぼくも「面白い」と感じたかもしれません。
でも、『タコピー』の場合、ヒロインのしずかちゃんに感情移入させようという仕掛けが欠けているように思うのです。
ぼくはこのしずかちゃんは特に魅力的なヒロインというわけでもないと感じます。
もちろん、それはぼくひとりの主観であるに過ぎず、格別の根拠があるわけではありませんが、この、しずかちゃんというキャラクターに、どうにも好きになるだけの「特別さ」を感じ取ることができない。
まあ、普通の子だよな、と。もちろん普通の子であって悪いわけではないのだけれど、逆にいえば何がすごいというわけでもないので、首吊りしてもあまり興味が持てない。
あるいは無茶をいっているかもしれませんが、ぼくとしては、もっとしずかちゃんに感情移入させてから自殺させてほしかった。
たしかに媒体を考えると、十歳かそこらの女の子が暴力的ないじめを受けつづけて自殺するという展開には一種の「凄み」があるかもしれませんが、逆にいえば、一般的な事例としてはそこまでめずらしいことでもない。それ自体で人を惹きつけられるほど強い事件ではないと思うのです。
どこを楽しんで良いのかよくわからない。
いや、ぼくはそう思うのですが、ネットを見ているとわりと楽しんで読んでいる人が多そうなので、ちょっと自分の感覚に疑問を感じないこともありません。
でも、そんなにスペシャルなものはないと思うのだけれど、そうでもないのかな。
まあ、いじめとか、自殺とか、ある程度は面白く読めるテーマなのはそうだと思うのですが、「それだけ」では特に面白くないよなと。
もう少していねいに自殺に追い詰められる心理を追いかけていたら、ぼくも面白く読めていたかもしれないけれど、そこに至るまでに格別の物語的な波乱がないので、どうしても「普通」という印象になってしまうんですよね。ああ、見知らぬ子が首吊って死んだだけだな、と。
とはいえ、ここら辺は作者もわかった上で意図してやっている可能性もあります。
ほんとうに読者にショックを与えるつもりなら、しずかちゃんが幸せになったところをどこかに入れていると思うのですよね。
じっさいにはしずかちゃんは最初から最後まで虐待されていて不幸な状況にあるから、死んでも特に「落差」がない。
ぼくは物語においてインパクトを生むのは「落差」だと認識しています。『魔法少女まどか☆マギカ』あたりは典型的な作例ですね。
なので、作者がほとんど「落差」を用意していないのは意図的かもしれないとも感じる。でも、「落差」がないのであまりかわいそうとも思わないこともたしか。
いや、こう書くと薄情そうに思われてしまうかもしれませんが、ぼくも小学生とか自殺とか、そういう素材は大好物なんですよ。
先に挙げた作品のほかにも、たとえば乙一の『死にぞこないの青』などはとても面白く読みました。
これも小学生の男の子がいじめで追い詰められていくストーリーですね。
こういう話には、やっぱりある種のほんとうらしさというか、リアリティがあるので、処理のしかたによっては面白く読める。
しかし、『タコピー』の場合、特に魅力的なキャラクターがいるわけでないし、サスペンスが盛り上がるわけでもないし、謎解きが待っているわけでもないだろうから、どこを楽しんで良いのかよくわからないのですよね。
エロもグロもないし。いやまあ、グロはちょっとあるか。
大方の読者はしずかちゃんを好きなのだろうか?
時々、こういう世評と自分の感覚がズレる作品があって、そのたびにぼくは悩むんですよね。自分の感覚がおかしいのだろうか、と。
たとえば、よしながふみさんのマンガなんかはそれにあたるもので、ぼくは『大奥』も『きのう何食べた?』もピンと来ないんですよね。
いや、客観的によくできていることは感じるのだけれど、主観的に訴えかけられるものがない。『タコピー』もそういう作品のひとつなのかもしれません。
まあ、しずかちゃんが首を吊る見開きとか、たしかにある種の感動があって、「おお、死なせたか」とは思ったのだけれど、どうしても、せっかく死なせるならもう少しギャップとかミスリードを用意して、効果的に殺したほうが良かったんじゃないかと思ってしまう。
みんなは、と、あえて架空の読者層を持ち出しますけれど、みんなはそうは思わないのかなあ。みんな、そんなに小学生の女の子が自殺する話が好きなのだろうか。ぼくはそこまででもないですね。
いや、前にも書いたように好きなことは好きなんだけれど、それはバックグラウンドでしかないというか、「それそのもの」がそこまで好きなわけではないんですよね。
「世界の残酷さ」とか「人間の救われなさ」って、いってしまえば「ごく当然なこと」でしかないわけじゃないですか。そこまで大騒ぎするほどの魅力があるとは思えない。
でも、じっさい、この作品はかなり好評を集めているようなので、大方の読者は意外としずかちゃんを好きになっているのかもしれません。
好きなキャラクターがあっさりと死んでしまうような作品にはたしかに魅力があります。ぼくがしずかちゃんの魅力をわかっていないだけなのかなあ。
でも、特に面白い子じゃないと思うんだけどなあ。どうも、どこがウケているのかよくわからない。
ただ、ひとは自分の感覚を中心に物事を捉えてしまうものなので、ぼくの感想がどこまで正しいものなのかわかりません。
ぼくの感覚としては、たとえば幸せの絶頂から地獄に堕ちるとかのほうが、より尊いと思うんですけどね。そこら辺、一般的にはどうなんだろ。良ければ、Twitterなどにご意見をお寄せください。
最新話でちょっとサスペンスが生まれたので、この先、よりサスペンスフルな展開になっていくことを祈って、この記事を終わります。ひょっとしたら、連載が終わる頃には至上の傑作に仕上がっているかもしれませんね。ぼくのアンテナの性能が悪いだけかも。