いまのところ、まだ第二巻までしか出ていませんが、『作りたい女と食べたい女』という作品が素晴らしいです。
まさに「(料理を)作りたい女」と、「食べたい女」がちょっとした偶然で出逢って、作ったり、食べたりするという、それだけといえばそれだけのお話。ただ、これがどういうわけか、非常に読ませる。
いまのところ、二人はただいっしょに作り、いっしょに食べるという、それだけの関係にとどまっているものの、今後、恋愛関係に発展していくかもしれないという含みを持たせた展開になっていて、広い意味では「百合」ないし「ガールズ・ラブ」に属する作品なのであろうと思われます。
でも、ちょっと他の百合作品にはない一風変わった魅力がある。
そもそも第一巻の時点ではとくべつ恋愛的な描写をされているわけでもないので、ただ仲の良い女性たちの話として受け取った読者もいるかもしれません。
作者さんはもともとはボーイズ・ラブものを描いていた人であるようですが、今後、これが代表作になっていくのではないかと思います。そのくらい、不思議に面白い。
読んでいただければすぐにわかるかと思いますが、ちょっとめったにないくらい穏やかに優しい気持ちで読める一作なのです。
で、「食」と「同性愛」というくくりで考えると、すぐによしながふみさんのヒット作『きのう何食べた?』が思い浮かぶところ。
この『作りたい女と食べたい女』は、『きのう何食べた?』の女性版といった印象もあります。
食事を作り、そして食べるということ。つまり同じ食卓を囲むということ。そのことがかもし出す何ともいえないほほえましく暖かい雰囲気、それが、『きのう何食べた?』や『作りたい女と食べたい女』の魅力なのでしょう。
物語としては、特に劇的なことは何も起こらない。ただ、料理と食事とを通して、たまたま知り合ったふたりの女性が、少しずつ、距離を縮めていく、ほんとうにそれだけのお話です。
しかし、このふたりのシェアする「空気」が、こう、何とも良いのですね。そして、ふたりが作っては食べる料理の数々も、何とも美味しそう。
これは『きのう何食べた?』もそうだけれど、食事を大切にするということは他ならない「あたりまえの生活」を重視することであるわけで、その意味で「日常系」のひとつのきわみみたいな作品ではあるかもしれません。
相手のためを思って料理を作り、そして、感謝の気持ちとともにそれをいただく。その、特別にドラマティックなところは何もない「あたりまえ」の行為が、人と人を強く結びつけていく。それが何だかとても良いのです。
同種のマンガには『新米姉妹のふたりごはん』などもありますが、『作りたい女と食べたい女』はもう少し生活に密着した「食」を扱っていて、だからまったりと柔らかい雰囲気がただよっています。
必ずしも「ハレ」としての食事ではない、むしろいつもの日常に密着した食べること。それが、しかしじっさいには深いところで「生きること」を支えている。そんなことまで考えさせる一作になっています。
うん、これは本当にオススメ。第一巻を読んだ時点ではまだそこまで自分の直感に自信を持てずにいたのですが、もう、間違いありません。
この作品は「次に来るマンガ」として推したいもののひとつとして選んでも問題ないマンガです。
コミカルさとシリアスさの配合もちょうど良いし、何度もくり返し読み返してしまいたくなる、そういう作品に仕上がっています。
この先、ふたりがどのようにして新しい関係を築いていくのかも含めて、先のことが気になるマンガの一つなのです。
ぼくはネットで一話一話、連載を追いかけているのですが、ゆっくりと信頼を醸成していくような彼女たちの姿には、ただほっこりとすることを越えて、何となくうらやましくなってくるようなものがあります。
おそらくは女性同士でしかありえないような関係の綾を描いているという一点において、やはりこの作品はきわめて優れた「百合」なのだと思う。
ただ百合好きな人に限らず、広く読んでいただきたい一作です。
ひとつだけ不安点を述べておくなら、どうも作者にはあきらかにフェミニズム的な思想があるようで、それが作品をどのような方向へ導いていくのか、若干心配でないこともないのですが、でも、いまのところ、その問題意識は作品を歪めるには至っていないように思えます。
むしろ、女性同性愛者の主人公を通して、「この社会で女性であることはなぜこうも窮屈なのか?」と問いかけていく描写には、素晴らしいものがある。
女性で、しかも性的マイノリティとなると、いまの社会ではどうしても生きづらいところも出てくるのでしょうが、それでもなお、大切な人ととの暖かなひと時を重視しながら日常を作り出していく。その力強さに何か胸打たれる、そんな作品です。
「Something Orange」のオススメ作品のひとつとして、挙げておきます。どうぞ、お読みください。よろしくお願いします。

