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【オススメ】同人百合の名作!『神絵師JKとOL腐女子』感想/レビュー。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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百合作品の魅力はどこにあるのか。

 【百合】が好きです(ぐるぐる目)。

 この場合の百合とは、花の種類ではなく、ある創作の分野のこと。

 つまり、女性同士の恋愛や、恋愛にまで至らない淡い思いなどの関係性に着目したジャンルを指しています。

 現在、日本では『百合姫』という百合漫画の専門誌が刊行されており、また、最近はそのほかの雑誌やウェブメディアでもあたりまえに百合漫画や百合小説を目にするようになりました。

百合姫 | 一迅社
コミック百合姫

 自然、頂点は高く、すそ野は広くなるわけで、内容も多彩さを増し、ボーイズ・ラブ(男性同士の恋愛もの)にはまだ及ばないものの、それなりに一大ジャンルとしての風格を増して来た印象があります。

 いま、百合は、10年前には考えられなかったくらい発展しているといって良いでしょう。良きことです。

 まあ、そういうわけで、その意味での百合作品が好きで色々と読んでいるのですが、時々、このジャンルの魅力はどこにあるのだろうと思ってしまいます。

 ぼくはいい歳をした男性なのに、なぜ、女性同士の恋愛や友情に興味を持つのだろう? いったい、【女の子ふたり】ということのどこに、それほどぼくを惹きつける魅力があるのだろうと。

 いや、「好きに理由はいらない」で終わらせても良いのですが、あえてひとつだけその魅力を述べるなら、おそらく、「女性の立場から女性を肯定するジャンルだから」ということになると思います。

 百合は、一般に、【女性を好きな女性】を主人公に据えるジャンルであるわけで、物語を通し、女性性の素晴らしさ、女の子たちの集団の心地良さといったものが礼賛される傾向にあります。

 それが、ぼくには心地良いんですね。社会に満ちあふれ、そしてさまざまな創作のなかにも氾濫している女性嫌悪(ミソジニー)に疲れたとき、百合を読むと、そこでは、【女の子大好き!】な女性たちがふつうに恋愛している。

 そのことに、何か救われる思いになるのだと思います。

 まあ、後づけの理屈といえばそれまでではあるのですが。

オススメ百合作品ランキングにランクイン!

 さて、そういうわけで、ぼくはわりとたくさん百合を読んでいます(上には上がいくらでもいますが)。

 そのなかにも、いってしまえば「量産型」でしかないように思える作品と、【特別な名作】として挙げたい作品が、当然ある。

 『青い花』とか『私に天使が舞い降りた!』、『私の百合はお仕事です』などといった作品は、個人的な評価も高く、また、すでに一定の声望を確立した名品といって良いでしょう。

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 で、このレベルの作品はないものかとあちこちを探している最中に見つけたのが、この『神絵師JKとOL腐女子』です。

 これが、面白い。

 ぼくのなかではいま最も先の展開が気になる百合作品のポジションを確保しています。

 なかなか新刊が出ないのでじりじりと最新刊を待っているのですけれどね。

 2022年1月11日現在で、第4巻まで発売されており、さらに続刊しています。

 話の内容を見る限り、まだまだ続くのではないでしょうか。

 もっとも、そう見せかけてあっさり終わってしまうあたりが百合漫画の恐ろしいところではあるのですが……。

 作者は【さと】さん。

 かつて、アニメ映画化されてごく一部の百合オタの狭苦しいサークルのあいだでだけ話題になった奇妙な漫画『フラグタイム』の作者さんです。

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 この『フラグタイム』は、かなり変わった作品で、一部の変わり種好きの百合オタは大好物かもしれないけれどあまり広まっていきそうにはない内容でした。

 何しろ時を止めてひたすらスカートめくりをしつづける女の子の話でしたからね……。だれに向けた漫画なのだろうと。

 個人的に、『神絵師JKとOL腐女子』はもう少し一般にウケるのではないかと思います。

 この文章を読まれているあなたにもぜひ読んでほしいと考えています(もう読んでいるかもしれませんが)。

 それでは、この漫画はどのようなお話なのか。

尊い!攻める神絵師JKと、とまどうOL腐女子。

 まあ、ネットで第一話を読めるので、ぼくの説明のまえにじっさいに読んでしまったほうが早いかもしれませんね。

神絵師JKとOL腐女子 - さと / 第1話 私の目の前には一人の神様がいた | コミプレ|ヒーローズ編集部が運営する無料マンガサイト
容姿淡麗だけど残念な腐女子OLの相沢(アイ)と、SNSのフォロワー数4万人超の神絵師JKの住田(ミスミ)。好きなアニメの解釈をめぐり、SNS上で意気投合した2人は、あるイベントで実際に会うことになり…!? 『フラグタイム』のさとが描く、年の差ガールズラブストーリー!!

 しかし、一応、解説していきましょう。

 タイトルですべてがわかってしまう可能性もありますが、この漫画は、あるひとりの天才的なネット絵師(イラストレーター)の女子高生と、彼女のファンで、しばしばとんでもない量の長文感想を送りつけているOLが主人公です。

 ふたりのあいだの年齢の差は、およそ10歳。つまり、この漫画はいわゆる【歳の差百合】にあたるわけです。

 歳の差百合。素晴らしい響き。この場合、「神絵師」の女子高生は「ミスミ」さんで、「腐女子」のOLは「アイ」さんというハンドルネームです。

 ふたりが属しているのは、いわゆるBL同人誌界隈。

 既存の商業作品の二次創作を中心とし、さまざまなカップリング(架空の恋愛/性愛関係)を生み出しては消費しつづける魔界。

 そして、そのなかでも彼女たちは【アグオカ(アグリ・イン・オカヤマ)】という作品の【いが×とつ】というジャンルに愛情を注ぎつづけています。

 ひじょうに優れた創作能力(同人二次創作ではありますが)を持つ「神絵師」と、自分では作品を生み出すことはできないものの、さまざまに彼女をサポートしていく「腐女子」という組み合わせがまず良い。

 そしてまた、ふたりとも、「萌え」の対象は男性カップリングであるわけですが、恋愛対象は女性であるらしく、出会うなりすぐ恋に落ちてしまいます。

 ここら辺、百合作品ならではのご都合主義といえなくもありませんが、じつにスピーディーです。

 ただし、その先は、わりともたもたします。主にミスミさんが攻め、アイさんがとまどうという関係なのですが、一進一退しながら少しずつ進展していくふたりの関係が、何とも【尊み】を感じさせますね。

珠玉の歳の差百合。

 アイさんは年齢としては年上で、社会人としての知識とそれなりの分別もあり(「いが×とつ」に関してはまったく正気を失ってしまうのですが)、なかなか新しい恋に踏み出していくことができません。

 一方、ミスミさんは何といっても若く、恋愛に関しては攻め攻めでどんどん関係を進めていこうとしますが、自分はミスミさんからまだ子供だと見られているのではないかという意識を消せません。

 この、ふたりの絶妙な関係性と、そしてときどきインサートされる『アグオカ』への狂的なまでの情熱がこの作品の読みどころ。

 いや、ほんと好きなんですね、あなたたち。何であれ「好き」で結ばれた関係は強いよね。

 ちなみに女子高生のミスミさんはもちろん、アイさんも基本的に恋愛経験がほとんどないため、過去に読んで来た【薄い本】、つまりBL同人誌を参考にして恋愛しようとします。

 うんうん、オタクだよなあ。こういう「どうしようもないオタクあるある」が繰りひろげられるところもこの作品の魅力ですね。

 まあ、アイさんはさすがに過去に何度か(男性と?)つき合ったりもしているようなのですが、「この世にBLより大切なものがない」ため、恋愛関係を維持していくことができず、いつのまにかおつきあいが終わってしまっているようです。

 いや、まあ、わからないでもないけれど、あいての人、可哀想だな……。

 しかし、「だったら腐女子同士でつきあっちゃえばいいじゃん!」というわけで、ふたりはあっというまに結ばれるのですが、歳の差のほかにも色々な立場の違いから生まれる障害に直面したり、恋のライバルとして他の神絵師が登場したりして、物語は続いていきます。

 百合好きなら、あるいは少しでも同人界隈に興味があるオタクなら読んでおいて損はない、なかなかに珠玉の一作です。

 面白いよ。

 オススメなのです。

 ちなみに、同人誌に関わる女性たちを主役にした百合作品はこれだけではなく、『同人女百合アンソロジー』という本もあります。

 また、小説界隈を舞台にした作品としては、一時期、Twitterで大きな話題をさらっていた『私のジャンルに「神」がいます』という漫画も(厳密には百合ではないものの)、面白いですね。

 何しろ想像を絶する「巨大感情」が行きかう業界だけに、見ていて面白いですね。まあ、見られるほうはイヤかもしれないけれど。

 これからもこの手の作品を見ていきたいものです。

 おしまい。

 また、ほかにもこのような百合作品の記事を書いているので、よければ読んでいただければ。よろしくお願いします。

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