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なろう漫画『聖女の魔力は万能です』最新刊が面白い。

ライター

 1978年7月30日生まれ。男性。活字中毒。栗本薫『グイン・サーガ』全151巻完読。同人誌サークル〈アズキアライアカデミア〉の一員。月間100万ヒットを目ざし〈Something Orange〉を継続中。

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はじめに

 橘由華『聖女の魔力は万能です』は、もともと日本最大の小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていた作品です。

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 それがひじょうに高い人気を獲得し、漫画化され、アニメ化されて、さらに人気を集め、いまに至っているわけですね。

 「なろう」のいわゆる「女性向け」作品としては代表的なタイトルのひとつといって良いのではないでしょうか。

 じっさい、なかなか面白く、また楽しく読める作品です。

『聖女の魔力は万能です』のおおまかなあらすじ

 今回、取り上げたいのはそのコミカライズ(どうでもいいけれど、これもきっと和製英語だろうなあ)のほう。

 物語は、仕事に疲れた主人公・セイが異世界に召喚されるところから始まります。

 彼女は国を救う「聖女」として一方的に選ばれてしまったわけなのですが、それにもかかわらず、彼女を召喚した王子はセイを聖女として認めず、いっしょに召喚されたもう一人の少女こそ本物の聖女だと思い込んでしまいます。

 そして、おまえなどいらないとばかりに放り出されたセイは、異世界でのほほんと、またたくましく生きていくことになるのです。

 ただ、そうはいってもほんとうは彼女もまた聖女の力を持つ身。自然、いつまでも身を隠してはいられないわけで、やがて、セイこそがほんとうの聖女なのではないかという憶測が広まっていきます。

 はたして、セイはどうなってしまうのでしょうか――というのがおおまかなあらすじ。

 で、まあ、その後、色々あって、セイは正式に聖女として認められることになります。

 より正確には、自分から正体を明かしてしまうのですが、2022年2月現時点で最新刊にあたる第7巻は、そのあとのエピソード。

 だれはばかることなく聖女の力を振るうことができるようになった代わりに、大きな責任をも負う羽目になってしまったセイの冒険が描かれます。

遠征へ

 前巻で騎士団とともに辺境の領地へ遠征に出かけることになりました。

 聖女としての活躍を期待されてのことですが、セイはまだ自分の力を完全にコントロールすることができません。

 きわめて優れた魔力(やはりどうでもいいことだけれど、聖女なのに「魔」力ってどうなのだろう)である「聖女の術」を使えるはいるものの、その発動条件がよくわからないのです。

 そこで、彼女は自分の力を研究しながら、一方で料理をしたり、ふつうのものより効果の高いポーションの開発に乗り出したりします。

 あまり騒動を起こさないよういい含められているものの、そこは主人公、トラブルと無縁でいられるはずもありません。当然のように、いくつかの事件が持ちあがります。

 そして、また、最高の効果を持つ最上級ポーションを作るための条件として、「聖女の術」が関わっていることがわかるのですが、やはり「聖女の術」を使いこなす方法がわかりません。

 困惑するセイ。そこへ騎士団が魔物に苦戦して戻ったとの報せが入ります。セイは愛する騎士団長アルベルト・ホークのために走っていくのですが――。

「品」があるということ

 そう、この作品には、「女性向け」なのであたりまえといえばあたりまえのことですが、恋愛要素があります。

 ただ、主人公がわりと歳を取っている設定なので、それもそこまで強烈な印象ではない。

 何というか、あまりいやみがなく、「品」がある感じなのですね。上品。

 あるいはいまの「なろう」ではもっとアクが強くないとウケないかもしれませんが、ぼくはあまりに主人公中心で、ご都合主義的な物語よりは、どこかにクラシカルなファンタジーの香りを残したこのくらいの作品のほうが好きですね。

 そう、この作品の魅力がどこにあるかというと、主人公であるセイを初めとしたキャラクターたちの、人間的な品格にあるのではないかと思います。

 品格などという言葉を使うのはあまりに大袈裟と受け取られるかもしれませんが、登場人物が基本的にまじめで誠実なんですよね。

 「なろう」では、すべての利得を主人公が持っていく作品がウケる傾向がありますが、それらはやはり「品」がないものが多い。

 だから、「なろう」ではウケても、そこから先になかなか広がっていかない。

 そういう意味で、この作品は良いですね。

 たとえば、以前取り上げた『回復術士のやり直し』などとはまったく違う印象です。どちらがより優れているというものでもありませんが。

「癒やし」の力

 もうひとつ、この作品の良さは、主人公セイが持っている力が攻撃のためのものではなく、「癒やし」の力であることでしょう。

 彼女はロールプレイングゲームでいうヒーラーであるわけですが、あらゆる負傷を一瞬で治してしまいます。

 それが、近代大学の存在しないこの世界で、いかに偉大な奇蹟であるのかということが、この作品ではひじょうに強調されているのですね。

 二度と治らないかと思われた傷を治してしまう彼女が人々から崇拝を集めていくプロセスはごく自然です。

 それは、一種の「無双」であるわけですが、「攻める」、つまり殺したり壊したりすることではなく、「癒やし、治す」ところに焦点があたっているところがちょっと面白い。

 じっさい、こんな力を持った人がいたら、まさに「聖女」として尊敬を集めても当然かもしれません。そう、たとえば、天才医師ブラック・ジャックが人々の感謝と敬意を集めるように。

 そういうわけで、どこかに「ここが凄い!」という明確なポイントがあるわけではないのですが、それでも、不思議と面白く読める作品です。これはもう、作家の個性としかいいようがない。

 アニメのほうもまあまあの出来だったので、気楽に読める作品を探している人にはお奨めですね。全体的なクオリティはかなり高いと思います。

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